労務管理

【実務解説】退職時に従業員がパソコンを返却しない場合、賃金から差し引けるのか?

こんにちは。ひらおか社会保険労務士事務所です。

「従業員が退職したが、会社から貸与していたパソコンが返却されない。最後の給与から差し引いて清算できないか?」
――これは人事・労務担当者からよく寄せられる質問のひとつです。

結論から言えば、パソコン代を最後の給与から控除することはできません

1. 賃金から控除できるものとは?

労働基準法第24条では「賃金の全額払いの原則」が定められており、賃金から控除できるのは以下に限られます。

  • 法令で定められたもの
    (厚生年金保険料・健康保険料・介護保険料・雇用保険料・所得税・住民税 等)
  • 労使協定で定めたもの
    (社宅費用や積立金など、あらかじめ金額が確定しているもの)

したがって、パソコンの代金のように「退職時点で価値が確定していないもの」は賃金から差し引くことはできません。

2. 退職時の合意書で差し引き可能か?

「退職時にパソコンを返却しなければ〇〇円を支払う」といった事前合意を結ぶこともできません。

労働基準法第16条で「賠償予定の禁止」が定められており、労働契約の不履行に対してあらかじめ違約金や損害賠償額を定めることは禁止されているためです。

3. 実務対応のポイント

パソコンなどの会社備品を返却してもらえない場合、次の対応が現実的です。

  • 返却を催促する通知文の送付
    書面または内容証明郵便で返却を求める。
  • 損害賠償請求を検討
    返却がなされず会社に損害が発生した場合、民事上の損害賠償請求の対象となる。
  • 貸与管理ルールの整備
    入社時や貸与時に「返却ルール」「管理台帳」を明確にしておく。

4. 事例紹介:パソコン未返却のケース

ある中小企業で、退職した従業員が会社貸与のパソコンを返却せず連絡も取れない状況に。

人事担当者は最後の給与から代金を差し引こうと考えましたが、社労士の助言により断念。
その代わりに 内容証明郵便で返却を催告 し、それでも返却されないため民事訴訟を提起。最終的に返却に至りました。

給与からの天引きではなく、法的手続きに則った対応が必要 であることを学んだ事例です。

まとめ

  • パソコン代を給与から控除することはできない
  • 賠償予定の合意も禁止されている
  • 実務上は「返却催告 → 損害賠償請求 → 管理ルール整備」が重要

企業としては、貸与物の管理体制を整えておくことが最大の防止策です。

✅ 貸与物の返却ルールや退職時対応でお困りの際は、専門家にご相談ください。

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