1.基本的な考え方 ― 属地主義
日本法人が海外に支社を設立した場合、その支社で働く労働者には 日本の労働基準法は適用されません。
労働基準法は、日本国内の事業場における労働条件を規律する法律であり、「属地主義」の原則が採用されています。
属地主義とは、その国の領土内で行われる行為については、その国の法律が適用されるという考え方です。
したがって、海外支社での労務管理は 現地の労働法制 に従うことになります。
2.日本の労働基準法の位置づけ
労働基準法は、
- 労働条件の最低基準を定め
- 使用者にこれを守らせることで労働者を保護し
- 違反した場合は罰則を科す
という「取締法規」です。
このため、海外での事業活動には直接及ばず、現地での雇用契約や労務管理はその国の法律で判断されます。
3.実務上のポイント
- 現地法を必ず確認する
最低賃金、労働時間、休日、有給休暇、社会保険制度などは日本と大きく異なる場合があります。 - 就業規則の整備
現地法人としての規程を整備し、現地労働局や監督機関への届出が必要な場合もあります。 - 日本人駐在員の扱い
駐在員については「日本の会社との雇用関係」と「現地との雇用契約」の二重構造になることがあります。給与や社会保険の取扱いは個別に検討が必要です。
4.事例
事例①:ベトナムに支社を立ち上げた製造業A社
A社は日本から現地工場へ管理者を派遣しました。
現地で採用した労働者には、ベトナムの労働法に基づき、法定の労働時間(1日8時間、週48時間以内)と最低賃金を遵守する必要がありました。
また、現地の社会保険への加入も義務付けられました。
一方、日本から派遣した駐在員については、日本法人との雇用契約が継続しているため、日本の社会保険に引き続き加入するケースとなりました。
事例②:アメリカに営業支社を設立したIT企業B社
B社は現地で採用した営業担当者に、日本法人の就業規則をそのまま適用しようとしました。
しかし、アメリカでは州ごとに労働法制が異なり、有給休暇の付与や解雇規制の内容が日本と大きく異なるため、労務管理が不適切と指摘されました。
その後、現地の法律事務所の助言を得て、州法に則った雇用契約書を作成し直しました。
まとめ
日本法人が海外支社を立ち上げる場合、そこで適用されるのは 日本の労働基準法ではなく現地の労働法 です。
国ごとに労働条件や制度が大きく異なるため、事前に現地法を調査し、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることが重要です。
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