こんにちは。
ひらおか社会保険労務士事務所の平岡です。
最近、障害年金の「認定が厳しくなったのでは?」という声をよく耳にします。
実際にそう感じた方もいらっしゃるかもしれません。
こうした世間の関心を背景に、厚生労働省は令和6年度、日本年金機構と連携して「障害年金の認定状況に関する実態調査」を行い、結果を公表しました。
今回の調査は、報道でも取り上げられてきた障害年金認定の運用実態について、抽出事例(新規裁定1,000件/再認定10,000件)を対象にした実態把握と、職員へのヒアリングを通じた分析です。
本記事では、その内容をかみ砕いて解説しつつ、今後の実務で押さえるべきポイントをまとめていきます。
■ 不支給割合が上昇、特に精神障害で顕著
まず注目すべきは、「新規裁定1,000件」のうち、13.0%が非該当(不支給)だった点です。
これは前年(令和5年度)の8.4%から大幅に増加しており、とくに精神障害においてこの傾向が顕著でした。
- 外部障害の不支給率:10.8%(前年10.2%)
- 内部障害の不支給率:20.6%(前年19.4%)
- 精神障害の不支給率:12.1% → 前年6.4%の約2倍に増加
■ 「ガイドラインより低い等級認定」が7割以上
精神障害での不支給・軽等級認定が増加している背景には、
**ガイドライン等級の「目安より低い」判断がされた事例が75.3%**に達したというデータがあります。
つまり、「本来2級の目安」とされる事例であっても、実際には3級や不支給とされる事例が多数あるということです。
この理由として、
- 診断書の内容が簡素/症状の程度が軽く見える
- 実際の日常生活状況(支援の有無等)が明確に書かれていない
- 医師と本人の申立書・カルテ内容が食い違っている
などの要因が、審査実務のヒアリングから明らかになっています。
■ 再認定の支給停止は1.0%と前年度並み
一方で、再認定(既に受給している方の継続審査)では、**支給停止は1.0%**と前年度と同程度で、
大半は継続して年金が支給されていることも分かりました。
これは、いったん認定された方に対しては、継続的な支給が行われていることを示しており、
今回の調査は特に「新規認定における審査の厳格化傾向」を浮き彫りにするものでした。
■ 厚労省・年金機構の今後の対応策
厚労省は今回の調査結果をふまえ、審査の信頼性と公平性を高めるために、以下のような対応を進めると発表しています:
改善策 | 内容 |
---|---|
① 診断書記載内容の見直し | 事前確認票の精緻化、日常生活状況の詳細記載促進 |
② 等級案の廃止 | 特に精神障害について、書面上の等級案記載を廃止 |
③ 医師選定の無作為化 | 認定医の指定を独立部門が行う方式に |
④ 不支給時の理由説明強化 | 行政手続法に基づき、わかりやすく丁寧に説明 |
⑤ 複数医師での判断 | 特に難しい判断は複数認定医での合議に |
■ 実務で気をつけたいこと(社労士の視点)
認定率の変動に一喜一憂するのではなく、私たち社労士として重要なのは「適切な書類準備」です。
✔ 診断書は、症状の程度だけでなく“日常生活や職場での支障”を具体的に
✔ 本人の申立書や医療機関の記録との一貫性があるかチェック
✔ 支援状況や介助の有無、就労の有無なども現実に即して明記
「どう書けば伝わるか?」を申請者本人・ご家族・医師と一緒に考える姿勢が、実務の鍵になると感じています。
■ まとめ
今回の調査結果は、「障害年金の審査が厳しくなっている」という印象を裏付けるものではありますが、
一方で、審査の透明性や支援体制も進化しつつあります。
障害年金の申請は、制度を知るだけでは通りません。
“伝わる書き方” ができるかどうかが、大きな分かれ道になります。