テーマ
労働条件の不利益変更
事案の概要
被告会社(一般貨物自動車運送業)は、従来の給与体系を廃止し、新たに定額残業代を導入する給与規程へと変更しました。
その際、従業員には新給与体系を反映した労働条件通知書兼労働契約書を示し、署名押印を得ています。
しかし、トラック運転手として勤務していた原告らは、給与体系の変更は不利益変更であり無効であるとして、未払割増賃金等の支払いを求めて提訴しました。
裁判所の判断(東京地裁 令和6年2月19日判決)
裁判所は以下の2点を争点として検討しました。
- 労働者の同意は自由意思に基づくものか
- 署名押印があっても、自由意思に基づいたかどうかは、
- 不利益の内容と程度
- 同意に至った経緯や説明内容
を総合的に判断する必要がある。
- 本件では、時間単価が旧体系比で約69~81%に減少する不利益が生じることを、労働者が十分に認識できたとは認められず、自由意思に基づく同意とはいえない。
- 署名押印があっても、自由意思に基づいたかどうかは、
- 給与規程の変更に合理性があるか(労働契約法10条)
- 基礎賃金も3~7万円減少し、労働者に著しい不利益があった。
- 不利益の内容や程度を労働者が十分に把握できる情報提供があったとはいえず、変更に合理性があるとは認められない。
結果として、定額残業代を導入した新給与規程は無効と判断されました。
実務上のポイント
この判決は、企業が給与規程を変更する際に以下の点を重視すべきことを示しています。
- 同意の有効性
単なる署名押印だけでは足りず、自由意思に基づくかどうかを厳格に判断される。 - 情報提供の必要性
不利益の内容や程度を労働者が理解できるように、十分な説明や資料の提示が不可欠。 - 合理性の確保
不利益が大きい場合には、会社側の経営上の必要性や代替措置などの合理的理由が求められる。
【事例】定額残業代導入時の実務的ジレンマ
ある企業が定額残業代を導入する際、時間単価が下がることを詳細に説明すればするほど、従業員の反対が強まり同意を得にくくなるケースがあります。
一方で、説明が不十分であれば「自由意思に基づく同意」と認められず、今回の裁判例のように規程変更が無効と判断されるリスクがあります。
「詳細に説明すれば同意が得られない、説明しなければ同意が無効になる」という難しいジレンマに直面するのです。
まとめ
定額残業代を含む給与規程の変更は、従業員にとって不利益となる場合が多く、特に説明義務と同意の有効性が厳格に問われます。
企業は変更の必要性を丁寧に説明し、従業員が理解・納得できる環境を整えることが不可欠です。
根拠法令・参考情報
- 【事件情報】
事件名:ビーラインロジ事件
裁判所名:東京地方裁判所
判決日:令和6年2月19日
事件番号:令和1年(ワ)第11764号 - 【参考条文】
労働基準法 第37条
労働契約法 第7条
労働契約法 第8条
労働契約法 第10条
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