東京地方裁判所 令和5年10月26日判決
事案の概要
自動車教習所を運営する会社(原告)は、新入社員(被告)の教習指導員資格取得にかかる費用を立替払いしました。契約内容としては、
- 3年以上勤務すれば返還を免除
- 3年以内に退職すれば返還を請求
という合意がありました。
被告は資格を取得後、わずか約8か月で自己都合退職。原告は合意に基づき費用返還を請求しました。
裁判所の判断
裁判所は、以下の点を重視しました。
- 教習指導員資格は国家資格であり、他の教習所でも活用可能
- 資格取得によって資格手当が支給され、収入増加が早期に実現
- 研修期間中も給与が支払われ、勤務免除となっていたことは労働者に有利
- 返還義務を課す期間は3年と比較的短期間で、労働者を過度に拘束するものではない
その結果、返還合意は合理的であり、労働基準法16条(違約金の定めの禁止)には違反しないと判断しました。
解説
会社が資格取得費用を負担するケースは少なくありません。
一方で、資格取得後すぐに退職された場合、会社が負担した費用が無駄になるリスクがあります。
今回の判決は、
- 資格が個人に利益をもたらす(転職・収入アップ等)
- 会社に過度な拘束を与えない範囲(3年以内)での返還請求
であれば、返還合意は有効とされ得ることを示しました。
ただし、全ての資格や条件で同じ判断になるわけではなく、
資格の汎用性・取得後の待遇・返還期間など、労働者にとって合理的な条件かどうかがポイントとなります。
実務上のポイント
- 資格取得支援制度を設ける際は、返還条件を明確に契約書や誓約書に記載することが重要です。
- 返還期間は数年程度にとどめることで、労基法16条違反と評価されにくくなります。
- 業務に必要な資格であっても、労働者本人にどのような利益が生じるかを考慮してルールを設計することが望まれます。
事例紹介
ある飲食チェーンでは、調理師免許取得にかかる費用を会社が全額負担する代わりに、2年以内の退職時は返還を求める契約を結んでいます。
これにより、従業員は費用負担なく早期に資格を取得し手当を得られる一方、会社も一定期間は従業員の勤務継続を確保できています。
まとめ
本判決は、
「資格取得費用の返還請求=直ちに労基法違反」ではないことを確認した重要な事例です。
資格支援制度を導入する企業は、
- 合理的な返還条件
- 適切な返還期間設定
- 契約書での明示
を徹底することで、トラブル防止につなげられます。
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