企業では、緊急時の対応や取引先との迅速な連絡のために、従業員へ会社貸与の携帯電話を持たせるケースがあります。特に医療・介護業界や建設業界では、突発的な対応が求められることも少なくありません。
しかし、勤務時間外にも携帯電話を持たせることには、労務管理上の課題が存在します。
勤務時間外に携帯電話を持たせること自体は可能
会社が従業員に携帯電話を貸与し、所持を義務付けることは違法ではありません。
しかし、「勤務時間外に緊急連絡があった場合、必ず対応しなければならない」と義務付けると、労働時間に該当する可能性があります。
労働時間に該当するかどうかの判断
- 単に所持するだけ → 労働時間にはならない
- 着信があれば必ず応答する義務がある → 使用者の指揮命令下にあると評価され、労働時間に該当する可能性がある
- 実際に応答して業務を行った場合 → その時間は労働時間に算入される
もし労働時間に該当する場合、会社はその時間分の賃金を支払う義務を負います。また、労働時間の記録も必要になります。
実務での課題と対応策
- 待機時間の取り扱い
常時対応を求めると「待機時間=労働時間」とみなされやすいため、業務が発生した場合のみ労働時間としてカウントする運用が望ましい。 - 労働時間管理の徹底
実際に電話対応した時間を従業員が自己申告する仕組みを整備しておく。
例:タイムカードやアプリで「緊急対応時間」を入力させる。 - 代替手当の導入
「待機手当」や「オンコール手当」を設定し、一定額を支給することでトラブルを予防できる。
※医療業界などでは「オンコール手当」が一般的。
事例
事例①:建設会社A社
工事現場の突発トラブルに備え、現場監督に勤務時間外も携帯電話を持たせていた。
→ 実際に週2~3回の緊急対応が発生していたが、賃金を支払っていなかったため、従業員から「未払い残業代」として請求を受けた。
事例②:介護事業所B社
夜間の利用者急変に備え、オンコール体制を導入。携帯電話の所持義務を課す代わりに、「オンコール手当(1回2,000円)」を支給。実際に出動した場合のみ別途時間外手当を支給する仕組みに。
→ 従業員の納得感が高まり、トラブル防止につながった。
まとめ
- 携帯電話の所持だけなら労働時間ではない
- 対応を義務付けると労働時間になる可能性が高い
- 実務では「待機手当」「自己申告制」「明確なルール化」でトラブル防止が重要
根拠法令・参考情報
- 労働基準法 第24条(賃金の支払)
- 厚生労働省『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』
👉 ガイドライン全文はこちら
📌 実務ワンポイント
オンコール体制を導入する場合は、就業規則や賃金規程に「待機手当のルール」を明記しておくと安心です。