2025/09/11 コラム
東京地方裁判所 令和7年1月31日判決
事案の概要
本件は、配転命令(人事異動)を拒否した従業員に対する解雇の有効性が争われた事案です。
- 原告は平成30年11月に採用され、WEB統括部・プロダクト開発部に配属。
- 就業規則には「配置転換を含む異動があり、正当な理由がない限り拒否できない」との規定が存在。
- 原告は報連相ができないなどコミュニケーション面に課題があり、人事評価も下位。
- 被告会社はコロナ禍の影響で債権回収部門の人手不足に対応する必要があり、原告に配転命令を発令。
- 原告は異動を不服として出勤を拒否し、欠勤を繰り返したため、最終的に解雇処分となった。
裁判所の判断(判旨)
裁判所は次のように判断しました。
- 配置転換命令権は無制約ではないが、業務上の必要性があり、かつ不当な目的や過度の不利益がない限りは有効。
- 本件では、
- 部署の人手不足という明確な業務上の必要性が存在
- 就業規則に基づき異動命令を発令していた
- 職務限定採用とは認められない
とし、配転命令は有効、解雇も有効と判断しました。
解説(実務上のポイント)
企業実務では、「困難社員」への対応が大きな課題となります。
- 「報連相ができない」「協調性に欠ける」といった従業員に対し、いきなり解雇は困難。
- まずは異動・配置転換で適性を見極めるのが一般的な対応手段です。
しかし、異動を命じても従わない場合、最終的に解雇という選択肢が出てきます。
その際に重要なのは、
- 就業規則に異動の定めがあるか
- 業務上の必要性が明確に存在するか
- 不当な動機や過度の不利益がないか
これらが揃えば、裁判所も会社側の判断を支持する傾向にあります。
事例(実務で想定されるケース)
- 事例①:バックオフィス社員の配転
経理部門で報連相が不足し、業務に支障を来していた社員を、顧客対応部門に異動。本人が拒否し欠勤を繰り返した場合、解雇の有効性が争点となる。 - 事例②:店舗スタッフの異動
接客態度に問題があるスタッフを、別店舗の在庫管理業務へ異動。業務上の必要性があれば、拒否を続けると懲戒や解雇に至る可能性もある。
実務担当者へのアドバイス
- 就業規則に「異動・配転の規定」が明確にあるか、定期的に確認しておきましょう。
- 異動命令を出す際には、業務上の必要性を客観的に説明できる記録を残すことが大切です。
- 職務限定採用(専門職採用)の場合は扱いが異なるため、求人票・労働契約書の記載内容を再確認しておきましょう。
まとめ
本件は、会社が人手不足対応のために下した異動命令を従業員が拒否し、最終的に解雇となった事案です。裁判所は、就業規則の規定や業務上の必要性を重視し、会社の対応を支持しました。
人事労務担当者としては、異動命令を発する際の適法性の確保と、就業規則の点検が重要です。
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