~令和8年からの新ルールも解説~
年末調整は、毎月の給与から天引きしている所得税を1年分で精算し、従業員ごとに正しい税額に調整する大切な手続きです。
令和7年度は改正項目が多く、例年より注意が必要です。今回は、令和7年分の主な変更点と、令和8年以降の実務対応についてわかりやすく解説します。
1.今年の年末調整で特に注意すべき変更点(令和7年分)
(1)基礎控除の見直し
基礎控除額が【48万円 → 58万円】に引き上げられました。
さらに、合計所得金額が655万円以下の場合には「特例加算」があり、最大で95万円まで控除額が増えるケースもあります。
💡 実務のポイント
- 従業員の所得に応じて控除額が変わるため、源泉徴収票作成時にミスが起こりやすいです。
- 会計ソフト・給与システムの改定を確認しましょう。
(2)給与所得控除の見直し
最低保証額が【55万円 → 65万円】に引き上げられました。
給与収入190万円以下の従業員が対象で、パート・アルバイトに影響があります。
💡 実務のポイント
- 年末調整時に使用する「給与所得控除後の給与等の金額表」が改訂されています。
- 前年版を使い回すのはNGです。必ず最新版を使用しましょう。
(3)「特定親族特別控除」の新設
新たに、19歳~23歳未満で所得が58万円超123万円以下の親族を対象とした控除が設けられました。
従来、所得が多く扶養から外れていた学生アルバイトなども、この範囲であれば控除対象となります。
💡 実務のポイント
- 該当者がいる従業員には「特定親族特別控除申告書」の提出を案内しましょう。
- 扶養控除との重複はできません。
📘 例:
社員Aさんの子ども(20歳大学生)が、年間アルバイト収入90万円。
→ 所得58万円超123万円以下のため、「特定親族特別控除」の対象。
→ 扶養控除は受けられませんが、新しい控除により税負担が軽減されます。
(4)扶養親族等の所得要件が変更
基礎控除額の見直しに合わせ、扶養親族の所得要件も引き上げられました。
これにより、昨年まで扶養に入れなかった親族が、今年から対象になるケースもあります。
💡 実務のポイント
- 従業員からの「扶養控除等(異動)申告書」の再確認を必ず行いましょう。
(5)住宅ローン控除が「調書方式」に変更
従来の「証明書方式」に加え、金融機関が直接税務署へ残高情報を送る「調書方式」が導入されました。
これにより、従業員が年末残高証明書を添付しなくても控除が受けられる場合があります。
💡 実務のポイント
- 対象従業員には、金融機関への「住宅ローン控除の適用申請書」提出を案内しましょう。
2.令和8年から変わる源泉徴収のポイント
(1)「扶養親族等の数」の算定方法が変更
「特定親族特別控除」の導入に伴い、源泉徴収税額の算出に使う「扶養親族等の数」が見直されました。
今後は、以下の2区分でカウントします。
- 源泉控除対象配偶者
- 源泉控除対象親族(※特定親族も一定の条件で含む)
💡 実務のポイント
- 令和8年分の「扶養控除等(異動)申告書」様式が変更されています。
- 記載欄が「控除対象扶養親族」→「源泉控除対象親族」に変わるため、従業員説明の準備を。
(2)各種申告書の変更点
以下の書類に変更・追加があります。
| 書類名 | 変更点 |
|---|---|
| 扶養控除等(異動)申告書 | 「源泉控除対象親族」の欄が新設 |
| 基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 | 控除額の基準が改正 |
| 特定親族特別控除申告書 | 新設(令和7年より) |
| 保険料控除申告書 | 様式変更なし |
💡 実務のポイント
- 年末調整書類の配布時に「書き方ガイド」を添えることで、従業員からの問い合わせを減らせます。
3.【事例】実際に起こりやすい質問と対応
事例①:学生アルバイトの子どもがいる社員
Q:「うちの子が今年アルバイトで90万円稼ぎました。扶養控除は受けられますか?」
A:所得が58万円超123万円以下のため「扶養控除」ではなく、「特定親族特別控除」の対象です。
→ 新たに「特定親族特別控除申告書」を提出してもらいましょう。
事例②:途中退職した社員
Q:「10月末で退職した社員の年末調整にも新しい控除を適用する必要がありますか?」
A:令和7年11月以前に退職した従業員の年末調整には、改正内容は適用されません。
→ 本人(または遺族)が確定申告で調整します。
事例③:住宅ローン控除の添付忘れ
Q:「年末残高証明書を添付していない社員がいました。」
A:「調書方式」に該当していれば、金融機関から税務署へ自動送付されます。
ただし、該当しない場合は本人が確定申告を行う必要があります。
4.まとめ:早めの準備がトラブル防止のカギ
令和7年分の年末調整は、
✅ 基礎控除・給与所得控除の引き上げ
✅ 特定親族特別控除の創設
✅ 扶養親族等の定義変更
✅ 住宅ローン控除の方式変更
と、大きな制度改正が重なっています。
経理・総務担当者は、書類の最新版の入手とシステム設定の確認を早めに行いましょう。
また、従業員への案内文・社内マニュアルの整備も効果的です。