労務管理

【実務解説】入社時に必要書類を提出しない場合、採用を取り消せるのか?

こんにちは。ひらおか社会保険労務士事務所です。
今回は、「入社時の書類提出」をめぐるトラブルでよくある質問、
「必要書類を出さない従業員の採用を取り消せるのか?」
について、実務的な視点からわかりやすく解説します。

1. 入社時に提出を求める「所定書類」とは?

企業は、採用や入社手続きの際に次のような書類の提出を求めることが一般的です。

  • 雇用保険被保険者資格取得届に必要な書類(雇用保険被保険者番号など)
  • 年金手帳または基礎年金番号通知書
  • 健康保険被扶養者届に必要な証明書類
  • 源泉徴収票
  • 通勤経路届
  • 身元保証書(職種による)

これらの書類は、社会保険・税務・労務管理のために必須のものであり、
適正な入社処理のために提出が欠かせません。

2. 書類を提出しない場合、採用取消や解雇はできる?

結論から言うと、
「提出しない理由や書類の重要性」によって結論が異なります。

状況採用取消・解雇の可否解説
提出を採用条件として明示していた場合可能な場合あり例:本人確認書類・資格証明書など、業務遂行に必須の書類
書類が業務上重要なものでない場合原則不可単なる遅れや軽微な書類での不提出では懲戒理由になりにくい
提出拒否の理由が合理的な場合(紛失・再発行手続中など)原則不可解雇理由としては不相当と判断される可能性が高い

3. 判例に見る判断基準

金銭貸付業の従業員が身元保証書の提出を拒否したケース

この事案では、
「金銭を扱う職務であるにもかかわらず、身元保証書の提出を拒否し続けた」点について、
裁判所は次のように判断しました。

身元保証書の提出を拒んだことは、
「従業員としての適格性に重大な疑義を抱かせる重大な服務規律違反または背信行為
として、解雇を有効とした(裁判例)。

つまり、職務の性質上、提出が不可欠な書類を拒否した場合には、
採用取消や懲戒解雇が認められることがあります。

4. 採用取消と解雇の違いを理解しておく

区分意味手続き上のポイント
採用取消まだ労働契約が成立していない段階での取消し内定通知書などに「提出書類の提出を条件とする」旨を明記しておく
解雇労働契約成立後に会社が一方的に雇用を終了すること労働契約法第16条に基づく「客観的合理性」と「社会的相当性」が必要

採用取消を行う場合は、
「採用の条件として明確に書類提出を定めていたか」が重要な判断基準になります。
あいまいなルールでは、後のトラブルリスクが高まります。

5. 実務対応のポイント

✅ (1)採用条件の明示

内定通知書や雇用契約書に次のように記載しておくと明確です。

「入社手続きに必要な所定の書類を提出しない場合は、採用を取り消すことがあります。」

✅ (2)就業規則への明文化

「必要書類を正当な理由なく提出しない場合は、懲戒処分または解雇の対象となる」
という規定を設けておくことで、合理的な運用が可能になります。

✅ (3)本人への再確認・説明

書類未提出の理由を丁寧に確認し、
「提出期限」や「提出しない場合の対応」を文書で通知することが望ましいです。

6. 【事例】マイナンバー提出を拒んだケース

ある会社で、従業員が「個人情報を渡したくない」としてマイナンバーを提出しなかったケースがありました。
会社としては、源泉徴収票や社会保険手続きに必要であることを説明し、
再三の依頼にも応じなかったため、最終的に雇用契約を解除しました。

このように、法律で提出義務がある書類を拒否する場合は、
「業務遂行が不可能」として合理的な理由が認められることもあります。

7. 根拠法令

  • 労働契約法 第16条(解雇)
     解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする。

8. まとめ

まとめポイント内容
書類の重要性で判断が分かれる業務上不可欠な書類なら採用取消・解雇も認められる可能性あり
採用条件を明示しておくことが重要就業規則や内定通知書に明記しておく
手続きは慎重に本人確認・書面通知・説明記録を残す

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