労務管理

【実務解説】家族の病気を理由に転勤を拒む従業員に対して、証明書類の提出を求めることは可能か?

こんにちは。ひらおか社会保険労務士事務所です。

従業員に転勤を命じた際、「家族の病気」を理由に拒否されるケースがあります。会社としては業務運営上の必要性から転勤を命じたい一方で、従業員の家庭事情にも配慮しなければなりません。このような場合に、家族の病気を証明する書類の提出を求めることができるのかについて解説します。

1. 転勤命令の原則

  • 労働契約や就業規則に転勤命令権が定められている場合、会社は従業員に対して転勤を命じることができます。
  • ただし、その行使が有効となるためには以下の条件が必要です。
    • 業務上の必要性があること
    • 不当な動機・目的でないこと
    • 労働者に通常甘受すべき程度を超える不利益を与えないこと

この考え方は、東亜ペイント事件(最高裁昭和61年7月14日判決)でも示されています。

2. 家族の病気と「不利益」の判断

家族の病気の程度によっては、転勤が従業員に過度の不利益を与えると判断され、転勤命令が権利濫用とされる可能性があります。
例えば、要介護の親や通院が必要な配偶者の看護が必要な場合、生活の基盤が崩れることにつながります。

3. 証明書類の提出を求めることは可能か?

  • 一定の合理性と必要性がある場合、会社が従業員に対して「病状を確認できる書類」の提出を求めることは可能です。
  • ただし、病歴や診断情報は 要配慮個人情報 に該当するため、本人の同意を得たうえで、必要最小限の範囲で取り扱う必要があります。
  • 取得した情報は利用目的を明確にし、管理体制を整えておくことが求められます。

👉 根拠法令:個人情報保護法 第20条(適正な取得)

4. 実務での対応ポイント

  1. 転勤命令の必要性を明確化する
     業務上の理由(人員配置、事業戦略等)を説明できるよう準備する。
  2. 本人と十分に話し合う
     家庭状況を聞き取り、会社として可能な配慮を検討する。
  3. 書類提出は同意を得たうえで最小限に
     診断書や通院証明など、必要な範囲に限定して依頼する。
  4. 代替措置の検討
     リモートワーク・勤務地限定社員制度・一時的な配置転換など柔軟な対応も検討する。

【事例紹介】

事例A:配偶者が難病で通院が必要なケース

製造業のX社では、従業員に転勤を命じましたが、配偶者が難病治療中のため拒否されました。
会社は診断書の提出を依頼し、家族の治療継続が不可欠であることを確認。結果として転勤命令を撤回し、代わりにリモート勤務と出張対応で業務を行う体制を整えました。
➡ 転勤命令権の濫用を回避しつつ、業務継続と従業員の生活配慮を両立。

事例B:介護を理由に転勤を拒否したケース

IT企業のY社で、従業員が要介護状態の親を理由に転勤を拒否。会社は介護認定の通知書を提出してもらい、客観的に確認しました。
➡ 一定期間は勤務地を変更せず、その後の異動については介護サービス導入状況を踏まえて再検討することとしました。

まとめ

  • 転勤命令は原則可能だが、従業員に過度の不利益がある場合は権利濫用となる可能性あり
  • 家族の病気を理由とする場合、合理的範囲で証明書類の提出を求めることは可能
  • ただし「個人情報保護法」に基づき、本人の同意と必要最小限の取得・管理が必須
  • 実務では「業務上の必要性」と「従業員の生活配慮」を両立することが重要

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