はじめに
パートやアルバイトの方の中には、曜日や日によって勤務時間が異なる「シフト制」で働く方も多いでしょう。
そんな場合、有給休暇を取得した日に支払う金額(=有休賃金)をどう計算するか、悩まれる企業が少なくありません。
今回は、労働基準法に基づく3つの計算方法と、それぞれのメリット・注意点を実務的にわかりやすく解説します。
1.有給休暇の賃金計算方法は3つ
日によって所定労働時間が異なるときは、以下の3つの方法のいずれかを選び、就業規則に明記しておく必要があります。
| 方法 | 内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| ① 所定労働時間分の賃金 | その日に働く予定だった時間分の時給を支払う | 計算が簡単でわかりやすい |
| ② 平均賃金 | 過去3か月間の平均賃金をもとに支払う | どの日でも一定額で公平 |
| ③ 標準報酬日額 | 健康保険の報酬月額 ÷ 30 で算出 | 労使協定の締結が必要 |
2.① 所定労働時間分の賃金で支払う場合(最も多い方法)
最もシンプルで実務上よく採用される方法です。
「その日に働く予定だった時間 × 時給」で計算します。
【計算例】
時給:1,100円
その日の予定勤務時間:6時間
→ 有給休暇1日分の支払額 = 1,100円 × 6時間 = 6,600円
この方法は、実際の時給でそのまま計算できるため従業員にも理解されやすいのがメリットです。
⚠️ 注意点
- 勤務時間が長い日の方が支払額が多くなるため、長時間勤務日に有給を取りたいという希望が集中する可能性があります。
- シフト制の場合、シフト確定前に有給申請があった場合には、「直近の勤務実績」から平均的な勤務時間を設定しておくとよいでしょう。
3.② 平均賃金で支払う場合(どの日に取得しても同額)
「平均賃金」とは、過去3か月間に支払った賃金総額をもとに算出する方法です。
労働基準法施行規則第25条では、次のA・Bのいずれか高い方を採用します。
| 計算式 | 内容 |
|---|---|
| A:賃金総額 ÷ 過去3か月間の暦日数 | すべての日数で割る方法 |
| B:賃金総額 ÷ 労働日数 × 60% | 出勤した日数を基準にする方法 |
【計算例】
過去3か月間の賃金総額:33万円
暦日数:92日
労働日数:60日
- A:330,000 ÷ 92 = 3,587円
- B:330,000 ÷ 60 × 60% = 3,300円
→ 高い方を採用 ⇒ 3,587円/日
どの日に有給を取っても同額を支払うため、公平性が高い方法です。
ただし、計算がやや煩雑で管理が必要となります。
4.③ 標準報酬日額で支払う場合(労使協定が必要)
「標準報酬日額」とは、健康保険における報酬月額を30で割った金額です。
健康保険加入者に限り、労使協定を結ぶことでこの方法を選択可能です。
【例】
標準報酬月額:200,000円
→ 標準報酬日額 = 200,000 ÷ 30 = 6,666円
社会保険の基準を用いるため、支払金額が一定し、事務負担が少ないメリットがありますが、
健康保険に未加入のパート・アルバイトには適用できません。
5.【事例】曜日ごとに勤務時間が違うパートさんの場合
【事例】
スーパーで働くパートのAさんの勤務スケジュールは以下のとおりです。
| 曜日 | 勤務時間 | 時給 |
|---|---|---|
| 月曜・水曜・金曜 | 6時間勤務 | 1,100円 |
| 火曜・木曜 | 4時間勤務 | 1,100円 |
Aさんが「火曜日(4時間勤務日)」に有給休暇を取った場合、
①の方法を採用している会社では → 1,100円 × 4時間 = 4,400円
②の平均賃金方式では → 過去3か月の平均額(例:5,200円)
③の標準報酬日額方式では → 社会保険等級による固定額(例:6,666円)
このように、採用する計算方法によって有給休暇の金額が異なるため、
就業規則で明確にしておくことが重要です。
6.実務でのポイントまとめ
| チェック項目 | 実務上のポイント |
|---|---|
| ✅ 計算方法を定めているか | 就業規則に記載必須 |
| ✅ シフト制に対応できているか | シフト未確定時の基準をルール化 |
| ✅ 公平性と理解しやすさ | 所定時間制がシンプル、平均賃金制が公平 |
| ✅ 社会保険加入状況 | 標準報酬日額制は被保険者のみ利用可 |
7.まとめ
- 日によって労働時間が異なる場合、有給休暇の賃金は ①~③いずれかの方法で支払う必要があります。
- 最も一般的なのは「勤務予定時間 × 時給」で計算する①の方法。
- ただし、シフト制や公平性を重視する場合は「平均賃金」方式も検討を。
- 会社としてどの方法を採用するかを就業規則に明記し、労働者に周知することが重要です。
根拠法令・参考情報
- 労働基準法 第39条(年次有給休暇)
- 労働基準法施行規則 第25条
- 厚生労働省「年次有給休暇の取得及び管理に関するQ&A」
ひらおか社会保険労務士事務所より
当事務所では、シフト制パートの有給休暇計算・規程整備支援や、
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