労務管理

【実務解説】正社員からパートへの契約変更で時給を下げることはできる?

〜自由な意思に基づく「合意」がポイント〜

はじめに

「家庭の事情で働く時間を減らしたい」「副業との両立のために勤務日数を減らしたい」など、
従業員本人の希望で正社員からパート・アルバイトへ契約を変更するケースは少なくありません。

その際、企業としては「勤務時間が短くなるのだから時給も下げたい」と考える場面もありますが、
単に“本人の希望だから”と減額できるわけではありません。

今回は、正社員からパートに変更する際の賃金設定の注意点を、実務に役立つ形で解説します。

1. 時給の減額は「自由な意思に基づく合意」が前提

労働契約法第8条では、

「使用者および労働者は、合意により労働契約の内容である労働条件を変更することができる」
と定められています。

つまり、時給を減額すること自体は法律上可能ですが、
その合意が従業員の自由な意思に基づくものでなければなりません。

「やむを得ずサインした」「説明を十分に受けなかった」といったケースでは、
実質的に同意がなかったものと判断される可能性があります。

2. 実務上のポイント:説明責任と同意の手続き

💡企業が行うべき対応

  1. 労働条件変更の理由を明確に説明
     (例)勤務時間・責任範囲の変化、雇用形態による待遇の違い など
  2. 減額後の時給とその影響を明示
     月収見込みや社会保険加入要件なども説明しておくと丁寧です。
  3. 本人の理解と同意を文書で確認
     労働条件通知書や契約書のほか、同意書を別途作成しておくと確実です。

📋記載例(同意書の一文)

私は、会社から説明を受けた内容を十分理解したうえで、
正社員からパートタイマーへの雇用形態変更および賃金の改定に同意いたします。

3. 同一労働同一賃金と最低賃金のチェックも重要

時給を決定する際には、2つの観点からの確認が必要です。

  1. 同一労働同一賃金(パート有期法第8条)
     → 正社員とパートで仕事内容や責任が大きく変わらない場合、
      大幅な時給差は「不合理な待遇差」と判断される可能性があります。
  2. 最低賃金法(第4条)
     → 地域ごとの最低賃金を下回る設定は無効。
      変更前に、必ず都道府県別の最低賃金額を確認しましょう。

4. 実務事例:本人希望による勤務形態変更のケース

🏢 事例

Aさん(正社員・月給25万円)が、育児を理由に時短勤務を希望。
会社はパート勤務(月120時間)への変更を提案しました。
月給25万円を時給換算すると約1,560円でしたが、
会社側は「責任範囲が軽くなる」ことを理由に時給1,400円で提示。
Aさんが内容を理解し、文書で同意したため契約変更が成立しました。

この場合、

  • 業務内容・責任が軽くなる点
  • 本人の十分な理解と自由な合意
  • 最低賃金を下回らない設定
    の3点を満たしているため、減額は適法な変更と判断できます。

5. まとめ

正社員からパートへの変更は、
本人の希望があっても「合意の形式」だけでなく、
合意の実質(自由な意思・十分な理解)が重要です。

✅ 減額理由と根拠を説明する
✅ 同意を文書で残す
✅ 同一労働同一賃金・最低賃金を確認する

この3ステップを押さえれば、トラブルを防ぎながら
円滑な契約変更が可能になります。

📘 根拠法令

  • 労働契約法 第8条(労働契約の内容の変更)
  • パート有期法 第8条(不合理な待遇の禁止)
  • 最低賃金法 第4条(最低賃金の効力)

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