1.身元保証書とは
「身元保証書」とは、従業員の身元や行為を第三者(保証人)が保証する書面のことです。
従業員が会社に損害を与えた場合に、身元保証人が一定の範囲で賠償責任を負う契約になります。
入社時の提出書類として多くの企業で用いられていますが、
労働契約とは別の民法上の契約である点に注意が必要です。
2.身元保証の法的根拠
身元保証契約は、「身元保証に関する法律(昭和8年法律第42号)」に基づいて行われます。
この法律では、
- 保証期間は最長5年(自動更新の定めがあっても5年を超える部分は無効)
- 従業員の勤務状況に著しい変化があった場合、会社は保証人に通知義務がある
と定められています。
💡たとえば、従業員が営業職から経理職へ異動し、会社の金銭管理を担当するようになった場合、
企業は「業務内容が大きく変わった」として保証人にその旨を通知しなければなりません。
3.賠償が発生するケース
保証人が責任を負うのは、従業員が会社に損害を与えた場合です。
代表的なケースは次のとおりです。
| 主な事例 | 内容例 |
|---|---|
| 規程違反・不正行為 | セクハラ・パワハラ、金銭横領など |
| 備品やデータの破損 | 故意にパソコンを壊す、重要データを削除する |
| 情報漏洩 | 顧客情報を外部に提供、SNS投稿による漏洩 |
| 信用毀損行為 | SNSで会社の悪評を書き込む、取引先の悪口を拡散する |
4.実務上の運用ポイント
(1)保証期間の明確化
法律上、保証期間は原則5年以内です。
雇用が続く場合でも、5年ごとに再度保証契約を締結する必要があります。
自動更新を定めても、その効力は5年を超える部分では無効とされます。
(2)保証額の上限設定
賠償額は上限を明示しておくことが望まれます。
無制限の責任を負わせるような契約は、社会通念上・法律上問題になる可能性があります。
例:賠償額の上限を「50万円」などと明記する。
(3)通知義務の履行
従業員の職務内容や勤務状況が大きく変わった場合、
保証人への通知を怠ると契約の効力が限定されることがあります。
人事異動時には定期的な確認を行いましょう。
(4)個人情報の取扱い
保証人の住所・電話番号など、個人情報保護法上の管理も重要です。
提出された書類は鍵付きキャビネットやアクセス制限のある電子データで厳重に保管しましょう。
5.【事例紹介】身元保証契約が争点となったケース
📘 事例:金銭横領をめぐる損害賠償請求事件
ある企業で、経理担当者が会社の資金を横領しました。
企業は従業員本人と身元保証人に対して損害賠償を請求しましたが、
保証期間(5年)を経過していたため、保証人への請求は認められませんでした。
▶ 教訓
身元保証契約には有効期間の管理が不可欠。
期間満了後に再契約を行っていなければ、保証請求は法的に無効となるおそれがあります。
6.まとめ:身元保証書の実務チェックポイント
✅ 契約期間は最長5年。更新時には再契約が必要。
✅ 保証額の上限を明示しておく。
✅ 職務変更があれば保証人に通知。
✅ 個人情報の管理を徹底。
✅ 不正や損害が生じた際は、まず事実関係を慎重に確認。
💬 実務アドバイス
身元保証書は「保険」ではなく、信頼関係を確認するための契約書です。
過度な責任を負わせることなく、従業員・保証人・企業が安心できる制度設計を行いましょう。
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