ハラスメント行為が確認された場合、企業には適切な対応が求められます。
中でも 懲戒処分 は、会社として最も慎重な判断が必要となる対応のひとつです。
懲戒処分は法的な枠組みの中で行うものであり、
手続きを少しでも誤ると「懲戒権の濫用」と判断され、処分が無効となるおそれがあります。
この記事では、企業が懲戒処分を行う際に必ず押さえておくべきポイントを、
実務に即して分かりやすく解説します。
1.前提:就業規則に「懲戒事由」「処分内容」が明記されていること
懲戒処分を行うためには、就業規則に以下が明示されていなければなりません。
✔ 懲戒の種類(戒告/譴責/減給/出勤停止/降格/諭旨解雇/懲戒解雇など)
✔ 懲戒事由(ハラスメント行為を含む)
これらが就業規則にない場合、原則として懲戒処分はできません。
さらに重要なのが、
就業規則を労働者に周知していること(労基法第106条)です。
周知していなければ、処分は無効となる可能性があります。
2.懲戒処分には「相当性」が必要(重すぎる処分は無効)
労働契約法第15条では、
懲戒は「客観的に合理的な理由」を欠き、社会通念上相当でなければ無効
とされています。
▼相当性の判断ポイント
- 行為の悪質性
- 行為の継続性・執拗性
- 被害者の心身・就労への影響
- 職場秩序へ与えた影響
- 行為者の反省状況
- 過去の同様事案に対する処分との均衡
- 行為者の職位責任(管理職か否か)
特にハラスメント事案では裁判例でも「重すぎる処分は無効」とされた事例が多く、
慎重な判断が欠かせません。
3.事実確認は客観的証拠に基づいて実施する
懲戒処分を行うかどうかは、
客観的証拠に基づいた事実認定ができるかどうかが極めて重要です。
▼実務で用いられる主な証拠
- 被害者・行為者・関係者のヒアリング記録
- メール・LINE・チャット等の記録
- 防犯カメラ映像
- 日報・シフト表
- 第三者の目撃証言
- 医師の診断書 など
「被害者が言っているから」という理由だけで処分すると
裁判で無効となる可能性が高くなります。
4.加害者本人へのヒアリングと「弁明の機会」は必須
処分前には、行為者に対して必ず
弁明の機会(自己弁護の機会)
を与える必要があります。
▼弁明の機会のポイント
- 事実関係の認識違いを確認できる
- 行為者の反省状況を把握できる
- 一方的な聴取を避け、公正性を保つ
- 記録を残すことで後の紛争予防になる
弁明の機会を与えずに処分した場合、
「手続きの瑕疵」として無効になるリスクがあります。
5.処分の決定は「過去の事例との均衡」を考慮する
懲戒処分の重さは、
同じ職場の過去事例と比較して一貫性があるか
が重要です。
- 過去に同様のハラスメントで「出勤停止3日」だったのに
今回は「懲戒解雇」 - 他部署の管理職の類似行為では「戒告」だったのに
今回は「降格」
このような不均衡があると、処分は無効となる可能性があります。
6.【事例】適切な懲戒処分と無効になった処分
▼事例(適切な処分)
飲食店の店長が、部下に対し日常的に叱責・人格否定発言を繰り返した事案
【行為】
- 大勢の前で怒鳴る
- 「使えない」「辞めてしまえ」と人格否定
- LINEでも深夜に叱責
【会社の対応】
- 被害者・目撃者・行為者への丁寧なヒアリング
- 証拠(LINE・目撃証言)で事実認定
- 行為者には弁明の機会を付与
- 過去の事案との均衡を踏まえ、
出勤停止5日+管理職解任という処分に決定
【結果】
- 処分の相当性が認められ、紛争に発展せず
- 職場環境も改善
▼事例(処分が無効となったケース)
製造業でのパワハラ通報に対し、会社が即時懲戒解雇した事案
【問題点】
- 証拠が不十分(被害者の供述のみ)
- 行為者への弁明の機会を与えていない
- 過去事例では戒告程度であったのに、今回は急に解雇
- 就業規則の周知も不十分
【結果】
- 裁判で「懲戒解雇は無効」
- 解雇期間の給与支払いを命じられる
まとめ:懲戒処分は「手続き」と「相当性」が最重要
懲戒処分は企業に認められた権限ですが、
その行使には非常に慎重な運用が求められます。
処分が無効になる典型例は以下のとおりです:
- 就業規則に懲戒事由が無い
- 就業規則が従業員に周知されていない
- 事実確認が不十分
- 弁明の機会を与えていない
- 処分が重すぎる(相当性欠如)
- 過去の処分と不均衡
正しい手続きを踏み、客観的証拠に基づいて適切な処分を行うことが重要です。
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