職場でのパワーハラスメントにより、従業員がメンタルヘルス不調を訴えるケースは、年々増えています。
会社には 安全配慮義務 と パワハラ防止措置義務 があり、
対応を誤ると労災、損害賠償請求、労基署からの指導など大きなリスクにつながります。
この記事では、実務対応として必ず押さえておきたいポイントをわかりやすく解説します。
1.まず最優先は「従業員の安全確保」
メンタルヘルス不調の相談があった場合、会社が最初に行うべきは 従業員の安全の確保 です。
▼具体的な対応例
- 本人の体調を丁寧にヒアリングする
- 早めに医療機関の受診を促す
- 必要に応じて、休職・勤務軽減・配置転換等を検討
- 業務量の調整や負荷軽減
- 継続的に状態をフォロー
労働契約法5条では、
“労働者の生命・身体の安全に配慮する義務”
が明確に規定されています。
「本人が我慢すると言っているから…」と放置することは、
安全配慮義務違反となる危険があります。
2.事実確認の調査を速やかに開始する(プライバシー保護が重要)
パワハラの相談があった場合、企業には
迅速・正確な事実確認
を行う義務があります。
▼調査のポイント
- 本人の意向を丁寧に確認(誰に知られたくないか等)
- 調査範囲や方法を事前に説明し、同意を得る
- 調査対象者は必要最小限に限定
- 相談者が特定されないよう質問方法を工夫
- 記録は厳重に管理し、情報管理を徹底
調査を怠ると
「パワハラ防止措置義務違反」
として労基署や裁判で不利になります。
3.医師の意見を踏まえた就業上の措置が必須
メンタル不調が疑われる場合は、
医師の意見(産業医・主治医) を聴くことが重要です。
▼医師の意見が必要な場面
- 就労継続が可能か
- 業務量の調整が必要か
- 配置転換や休職の要否
- 出勤停止が適切か
医師の意見を無視して業務を続けさせると、
安全配慮義務違反として、企業の責任が問われます。
4.パワハラが事実であれば、適切な措置(指導・隔離・懲戒等)を実施
調査でパワハラが認められた場合は、
- 加害者への指導
- 行為者と被害者の隔離
- 業務体制の見直し
- 必要に応じた懲戒処分(相当性を考慮)
- チーム全体への再発防止措置
- 管理職のマネジメント指導
など、職場環境の改善に向けた措置を講じる必要があります。
加害者への懲戒処分は、
行為の悪質性・継続性・被害の程度・証拠・過去事例との均衡
をもとに慎重に判断します。
5.本人が調査を拒否した場合でも、会社の義務は消えない
相談者が
「調査しないでほしい」
「名前は絶対に出さないでほしい」
と言うこともあります。
しかし企業には、
パワハラ防止措置義務(労働施策総合推進法)
があるため、放置することはできません。
▼本人が調査を拒否する場合の対応例
- 相談者の意向を丁寧に確認(最低限の調査範囲を相談)
- 匿名性を確保した調査の検討
- 行為者に名前を出さずに指導を行う
- 全社的なパワハラ研修の実施
- 管理職へのマネジメント教育の強化
- 相談窓口体制の改善
本人の負担を最小限にしながら、
企業としての義務を果たす方法はいくつもあります。
【事例】実際にあった「パワハラによるメンタル不調」への対応例
▼事例:IT企業 A社の場合
従業員Bさん(女性)は、上司から
- 業務中の過度な叱責
- 認知されない深夜の指示
- 人前での侮辱
が続き、精神的に不調を感じて相談窓口へ連絡。
▼会社の対応
①医療機関を受診 → 主治医意見書を取得
Bさんは「適応障害」と診断。
②速やかに事実確認の調査を開始
関係者ヒアリング、メール記録などを収集。
③調査の結果、パワハラ行為が認定
複数の従業員から同様の証言が得られた。
④加害者への措置
- 管理職としてのマネジメント不適切
- 「出勤停止3日+管理職解任」
⑤本人の就業上の措置
- 一時的な休職
- 順次リワークプランに基づいて復職支援
▼結果
- Bさんの状態は改善
- 部署のマネジメント強化を図ることで、離職率も低下
- 労働紛争に発展することなく終結
企業として適切な初期対応を行ったことで、最悪の事態を防ぐことができました。
まとめ:早期対応と適切な調査が、労務リスクの回避につながる
パワハラによるメンタル不調の相談を受けた場合は、
次の5つが非常に重要です。
- 従業員の安全確保(医師の意見を踏まえる)
- 迅速・正確な事実確認(プライバシー配慮)
- 適切な就業上の措置
- パワハラ行為があれば厳正に対処
- 本人が拒否しても、会社の措置義務は消えない
早期に専門家へ相談することで、
企業のリスクを大幅に減らすことができます。
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