妊娠・出産を経験する女性労働者が安心して働けるようにするため、企業には「母性健康管理措置」を講じる義務があります。
しかし、実際の現場では「どのように対応すればいいのか」「どこまで配慮が必要なのか」が分かりづらいケースも少なくありません。
本記事では、厚生労働省のパンフレット「働く女性の母性健康管理のためのQ&A」をもとに、よくある事例を交えながら実務対応のポイントを解説します。
1.母性健康管理とは?
「母性健康管理」とは、妊娠・出産に関する健康診査や医師の指導内容に基づき、事業主が就業上の措置を講じることを指します。
これは、妊娠・出産を理由とした不利益取扱いを防ぎ、母体と胎児の健康を守るために法律で義務づけられています。
🔹 根拠法令
・男女雇用機会均等法第12条~第13条
・労働基準法第65条
2.ケース別Q&Aでみる母性健康管理の実務
Q1:妊娠が分かったら、健診のために仕事を休める?
➡ 休めます。
事業主は、妊娠中および出産後1年以内の女性労働者が、健康診査や保健指導を受けるために必要な時間を確保する義務があります。
また、通院時間や待ち時間、往復の移動時間も含まれます働く女性の母性健康管理のためのQ&A。
📍標準的な健康診査回数
- 妊娠初期~23週:4週間に1回
- 24週~35週:2週間に1回
- 36週~出産まで:1週間に1回
Q2:医師から「休むように」と言われた場合は?
➡ 医師の指導に従えるよう、企業は勤務時間や作業内容を調整する義務があります。
たとえば以下のような指導を受けた場合は、休業や勤務軽減の措置が必要です。
| 医師の指導内容 | 必要な企業側対応例 |
|---|---|
| 通勤緩和が必要 | 時差出勤や自宅近くの勤務に変更 |
| つわり・出血 | 勤務時間の短縮、軽作業への転換 |
| 休養が必要 | 一時的な休業措置 |
Q3:不育症の場合も対象になる?
➡ なります。
不育症などにより妊婦健診の回数が多い場合も、通常と同様に必要な時間を確保する必要があります。
また、医師の指導により休業を命じられた場合も母性健康管理措置の対象です
Q4:流産・死産を経験した場合は?
➡ 流産・死産後1年以内も、母性健康管理措置の対象です。
医師が休養を指示した場合、企業はその指導に従って休業などの措置を取らなければなりません。
特に妊娠4か月以降(85日以上)での流産・死産は、労働基準法に基づく「産後休業」の対象になります。
Q5:妊娠中に退職を迫られたら?
➡ 違法です。
妊娠・出産を理由とした解雇、雇止め、退職の強要、減給や降格などはすべて禁止されています(男女雇用機会均等法第9条第3項)。
📘 企業に求められる配慮
・妊娠を理由とする配置転換・評価の見直しは慎重に
・「出産まで働けるか心配」などの不用意な発言もNG
Q6:妊娠・出産に関するハラスメントを受けたら?
➡ 妊娠・出産を理由にした嫌がらせや差別的言動は、**マタニティハラスメント(マタハラ)**に該当します。
企業には、ハラスメント防止のための次の措置が義務づけられています。
| 防止措置内容 | 具体例 |
|---|---|
| 方針の明確化 | 社内規程に「妊娠・出産に関するハラスメント禁止」を明記 |
| 相談体制の整備 | 人事担当・社労士・外部窓口を設置 |
| 相談時の対応 | 事実確認・被害者の保護・行為者への指導 |
| 再発防止策 | 教育研修、匿名相談の導入など |
Q7:会社が対応してくれない場合は?
➡ 都道府県労働局の「雇用環境・均等部(室)」に相談できます。
行政から事業主に対して助言・指導・是正勧告が行われる場合もあります。
3.【事例】実際にあった相談例
事例①:つわりで出勤困難、休ませてもらえない
妊娠4か月でつわりが重く、医師の診断書を提出したが「シフトに穴が空く」と休みを認めてもらえなかったケース。
→ 企業側が医師の指導に従わなかったため、労働局から是正指導が行われました。
事例②:健診のための外出で上司が不満を示す
妊婦健診の度に「また病院?」「迷惑かけすぎ」と言われ、精神的に不安定に。
→ マタハラ防止措置が不十分と判断され、社内相談窓口の再整備と上司への研修が指導されました。
4.企業が取るべき実務対応まとめ
| チェック項目 | 対応内容 |
|---|---|
| 妊産婦の就業状況を把握 | 医師の指導書をもとに対応方針を決定 |
| 就業上の配慮 | 時間短縮、軽作業、休業など柔軟な対応 |
| 健診時間の確保 | 通院・待機・往復時間も含めて勤務扱いを検討 |
| ハラスメント防止 | 社内方針・相談体制を整備 |
| 不利益取扱い禁止 | 解雇・降格・減給・不当な発言は厳禁 |
5.まとめ|「働く妊産婦が安心して働ける職場」を
母性健康管理は、単に「配慮」ではなく法的義務です。
適切な対応は、妊産婦本人だけでなく、職場全体の信頼関係や組織の風土を守ることにつながります。
企業としては、法令に基づいた体制整備とともに、
「お互いに支え合う」意識をもった職場づくりが求められます。
🔗参考リンク
厚生労働省『女性労働者の母性健康管理等について』
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku05/index.html
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