■ 質問
「退職届を出した従業員から、すぐに有給休暇の申請がありました。
業務の引き継ぎも残っているのですが、会社として拒否することはできるのでしょうか?」
■ 結論
基本的には拒否できません。
退職届を提出した従業員が退職日までに年次有給休暇の取得を希望した場合、
会社は原則としてその取得を認めなければなりません。
労働基準法では、労働者の請求した時季に有給休暇を与えなければならないと定められています。
■ 法的根拠
労働基準法 第39条(年次有給休暇)
使用者は、労働者が請求する時季に年次有給休暇を与えなければならない。
■ ただし、例外もあります
例外として、「事業の正常な運営を妨げる場合」には、会社は「時季変更権」を行使できます。
ただし、退職が決まっている従業員の場合には、退職日以降に時季を変更することはできません。
つまり…
- ✅ 有給休暇の取得希望日が退職日までに収まる → 拒否できない
- ❌ 「引き継ぎができない」などの理由で退職日を過ぎてからに変更 → 不可
■ 事例で見る具体的な判断
〈事例1〉:退職届提出後、残り10日の勤務期間で10日間の有給を申請
- 従業員:Aさん(営業職)
- 提出日:3月1日
- 退職日:3月15日
- 有給残日数:10日
- 申請内容:「3月4日〜3月15日まで有給を取得したい」
<会社の対応>
この場合、Aさんは退職日までに全ての有給を消化したいという希望を出しています。
事業に著しい支障がない限り、会社は原則として拒否できません。
ただし、営業引き継ぎや顧客対応が残っている場合は、以下のように調整を依頼することは可能です。
「3月4日〜3月8日までは引き継ぎ期間として出勤いただき、
残り3月11日〜3月15日を有給休暇として取得する形でいかがでしょうか。」
■ 実務対応のポイント
① 退職時の引き継ぎルールを就業規則に明記
有給休暇の取得自体は止められませんが、引き継ぎ義務を明文化しておくことで、業務の混乱を防げます。
たとえば、以下のような規定が効果的です。
「従業員は退職の際、会社が指示する業務の引き継ぎを誠実に行わなければならない。
正当な理由なく引き継ぎを怠った場合は、懲戒の対象とすることがある。」
このように就業規則に定めておけば、「引き継ぎを怠る=懲戒対象」とすることができます。
② 有給の時季変更を行う場合は、必ず退職日前に
「時季変更権」を使えるのは事業の正常な運営を妨げる場合のみ。
また、退職日を過ぎるような変更は無効です。
たとえば、次のような対応はできません。
「退職日は4月30日ですが、有給を5月にずらしてもらえませんか?」
→ ❌ 法的に認められません。
■ 実務でのトラブル防止策
- 退職申出時に「引き継ぎ計画書」を作成してもらう
→ 有給消化とのバランスを明確化。 - 就業規則で「退職時の有給取得・引き継ぎルール」を明文化
→ 後から「聞いていない」とならないように。 - 有給残日数を常に把握しておく
→ 最後に慌てないよう、日数管理を日常的に行う。
■ まとめ
退職届提出後の有給休暇申請は、基本的に拒否できません。
ただし、会社の業務に重大な支障がある場合は、退職日までの範囲で時季変更が可能です。
一方で、退職日以降への変更はできないため、事前のルール整備と引き継ぎ計画が鍵となります。
■ 根拠法令・参考情報
- 労働基準法 第39条(年次有給休暇)
- 厚生労働省「年次有給休暇の取得促進に向けた取組」
- 行政通達:昭和63年3月14日基発150号