企業が必ず知っておくべき時間外労働の基準|ひらおか社会保険労務士事務所
労災認定の場面で頻繁に登場する「過労死ライン」。
これは単なる目安ではなく、脳・心臓疾患に関する労災認定の基準として、医学的根拠に基づき設定された重要な指標 です。
企業の労務管理担当者にとって、この基準を理解しておくことは、
従業員の健康管理・安全配慮義務・労災リスクの回避 のために必須となります。
1. 「過労死ライン」とは何か?
過労死ラインとは、脳・心臓疾患(脳出血、脳梗塞、心筋梗塞など)の労災認定において
業務と発症との関連性が強いと判断される水準の時間外労働 を指します。
厚生労働省の基準(令和5年改正)では、次の通りとされています。
■ 過労死ラインの基準
① 発症前1か月間に 月100時間超 の時間外労働
→ 100時間を超えると、過労死との関連性が非常に強いと判断される。
② 発症前2〜6か月間にわたり、
平均して月80時間超 の時間外労働がある場合
→ 長期間の蓄積疲労により、疾患発症との関連性が強くなる。
2. なぜ「100時間」「80時間」が基準なのか?
これらの数字は、医学的・疫学的研究に基づき、
長時間労働が続くことで脳血管疾患・心疾患の発症リスクが急上昇することが明らかになったため
設定されています。
- 睡眠不足
- 自律神経の乱れ
- 血圧上昇
- 血栓リスクの増加
といった働きが重なり、一定水準を超えると急激に危険性が高まることが多数の事例から確認されています。
3. 実務担当者が注意すべきポイント
■(1)勤怠管理を「正確に」行うことが必須
過労死ラインを超えた状態を会社が把握していなかった場合、
安全配慮義務違反が問われる可能性が高くなります。
特に危険なのは以下のケース:
- 管理職だからと勤怠をつけていない
- 自己申告制で残業が過少申告されている
- みなし労働時間制で実態と乖離している
- 現場のPCログや出退勤記録が管理されていない
■(2)月80時間を超えたら、即対応が必要
80時間を超えると、法令上は 医師による面接指導の対象 となり得ます。
企業が対応を怠ると、のちの労災審査で「予見可能性があった」と判断されやすくなります。
■(3)過労死ラインに達していない場合でも注意
例えば「70時間残業が半年続いている」など、
ラインを下回っても危険な状況は十分に存在 します。
企業としては、
- 配置転換
- 残業制限
- 業務量の調整
- メンタルケアの実施
など積極的な対応が求められます。
4. 【事例】過労死ラインを超えていたのに適切な管理をせず、企業の責任を認められたケース
■事例:長時間労働を放置した結果、脳疾患を発症
A社の技術職の従業員(40代男性)は、繁忙期に
- 月110時間の時間外労働
- 直前6か月も平均90時間の残業
と、過労死ラインを大幅に超える状態が続いていました。
しかし、会社は以下の理由で対策を講じませんでした。
- 「ベテランだから大丈夫」
- 「本人も頑張ると言っていた」
- 「繁忙期だから仕方ない」
その結果、従業員は脳出血で倒れ、数日後に死亡。
遺族の申請により 労災認定 され、会社には安全配慮義務違反として 損害賠償責任 が認められました。
この事例からわかるのは、
本人の意思や職務経験に関係なく、長時間労働そのものが重大なリスクである ということです。
5. 企業が今すぐ見直すべきチェックリスト
- □ 勤怠が「客観的記録」で管理されているか
- □ 管理職を含めて労働時間を把握できているか
- □ 月80・100時間の超過者を毎月チェックしているか
- □ 長時間労働者へ医師面接指導の案内を行っているか
- □ 業務量・配置に偏りが生じていないか
- □ ストレスチェック・相談窓口が機能しているか
6. まとめ
「過労死ライン」は、
労災認定の分岐点 となるだけでなく、企業の労務管理の重要な指標です。
- 1か月100時間超
- 2〜6か月平均80時間超
これらを超える働き方は極めて危険であり、
企業には早期の是正・健康管理の徹底が強く求められます。
従業員の健康を守ることは、企業の持続的成長に直結します。