労務管理

【実務解説】スポットワーク利用時の労働条件はどうなる?

短時間・単発の働き方でも「労働契約」は成立し、休業手当の支払い義務も発生します
|ひらおか社会保険労務士事務所

近年、アプリを使って数時間だけ働ける 「スポットワーク(単発アルバイト)」 が急速に広がっています。
しかし便利な一方で、労働者からは、

  • 始業前に準備作業を指示されたのに、その分の賃金が払われない
  • 事業主都合で仕事を急にキャンセルされた
  • 予定より早く帰らされた

といった 賃金トラブルが全国で多発 しています。

こうした状況を踏まえ、厚生労働省は令和7年7月4日に
「スポットワークを利用する労働者の労働条件の確保に関する通達」 を発出しました。
(基発0704第3号/職発0704第2号/雇均発0704第1号)

本記事では、通達の内容を社労士目線でわかりやすく解説します。

1.スポットワークでも「労働契約」は成立する

通達では、スポットワークの求人について明確に次のように示されています。

面接等を経ない先着順のマッチング型であれば、
特段の合意がない限り、労働者が求人に応募した時点で労働契約が成立すると考えられる。

つまり、

✔ 応募した瞬間に「労働契約成立」とみなされる可能性が高い

✔ 事業主は “採用しない自由” を失う

✔ 労働基準法のルールがフルで適用される

ということです。


【事例①】応募しただけで契約成立

<ケース>
飲食店のスポットワーク求人に応募したAさん。
面接なし・先着順で採用される仕組みでした。

その後、事業主から
「やっぱり来なくていいです。他の人が来れることになったので」
と一方的にキャンセル連絡が…。

<ポイント>
応募=採用決定とみなされるため、この時点で労働契約は成立。
事業主の都合によるキャンセルであれば、休業手当(労基法26条) が発生します。

2.事業主都合のキャンセルや早上がりは「休業手当」が必要

通達では次のように明記されています。

事業主の都合で丸1日の休業や早上がりをさせる場合は、
「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当し、休業手当の支払いが必要。

休業手当は、平均賃金の 60%以上 を支払う必要があります。

【事例②】急に早上がりを命じたケース

<ケース>
イベント会場で5時間のスポットワークに入ったBさん。
来場者が少なく、2時間で仕事が終了。

事業主から
「今日はもう帰っていいよ。残りの賃金は出ません」
と言われました。

<ポイント>
事業主都合による早上がりのため、
残り3時間分について休業手当の支払い義務あり。


3.労働時間は「実績に応じて確定」する必要がある

通達では、労働時間の確定と賃金支払いについても明記されています。

労働者が予定と異なる実働時間で修正申請した場合、
事業主は速やかに労働時間を確認し、労働時間を確定させること。

✔ 記録の確認

✔ 実際に働いた時間の確定

✔ 賃金の遅滞なき支払い

これらが求められます。


【事例③】始業前の準備作業の賃金不払

<ケース>
Cさんはアパレル店舗でのスポットワークに入りました。
事業主から
「オープン準備のため、10分前には来ておいて」
と言われていたため、実際に作業を開始。

しかし賃金は、求人に記載された時間分のみ…。

<ポイント>
準備作業は明らかに「労働時間」。
10分であっても賃金支払いが必要です。


4.実務で注意すべきポイント(事業主向け)

① 応募の段階で契約成立する可能性

→ キャンセルは休業手当の対象になるリスクがある

② 労働条件の明示は必ず書面または電子で

→ 労働条件通知書はスポットワークでも必須

③ 始業前や休憩時間中の作業はすべて労働時間

→ 実働時間の記録・確認が不可欠

④ 早上がり・仕事のキャンセルは慎重に

→ 事業主都合の場合、休業手当が必要


5.実務で注意すべきポイント(労働者向け)

① 応募=採用の場合がある

→ 急なキャンセルでも休業手当が請求できる可能性

② 実際に働いた時間は修正申請する

→ 始業前の作業、延長勤務などは必ず申告

③ 不当な扱いを受けた場合は労基署へ相談

→ 通達内容を基に相談しやすくなっています


6.まとめ:スポットワークでも「労働保護の対象」です

スポットワークは手軽に働ける一方、
事業主にも労働者にも誤解が多く、トラブルが起きやすい働き方 です。

今回の通達は、特に以下を明確にした点で非常に重要です。

  • 応募した時点で労働契約が成立し得る
  • キャンセル・早上がりは休業手当の対象
  • 実際に働いた時間は賃金支払いの必要あり

事業主は採用管理やシフト管理の見直しが必須です。
労働者も、自分の権利を正しく理解しておく必要があります。


【参考資料】

厚生労働省 通達(令和7年7月4日)
基発0704第3号/職発0704第2号/雇均発0704第1号

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