1.結論:内容が「採用判断の重要事項」であれば、内定取消しは可能
内定通知後に経歴詐称が発覚した場合、
その詐称が「重要な採用判断要素」を偽ったものであれば、内定取消しは有効 とされます。
一方で、 採用判断に影響しない軽微な詐称で内定を取り消すと、企業側の権利濫用と判断されるリスク があります。
企業としては、詐称内容の重要性・影響度を慎重に見極める必要があります。
2.内定取消しが認められるための法的基準
内定は「始期付解約権留保付労働契約」とされ、
取消しには次の2点が求められます。
✔ 客観的に合理的な理由
— 経歴詐称が重大で、企業が採用判断を誤るレベルのものか?
✔ 社会通念上の相当性
— 内定取消しという処分が妥当な範囲と言えるか?
この2つを満たす場合に限り、内定取消しは有効とされます。
3.どのような詐称なら「内定取消しが可能」なのか?
以下のような場合は、裁判例でも内定取消しが認められる可能性が高いです。
内定取消しが有効とされやすいケース
- 実際には保有していない資格を「保有している」と申告
- 実務経験がないのに「5年以上の経験あり」と記載
- 重大な懲戒歴・刑事事件歴を故意に隠していた
- 大学卒業していないのに「大卒」と偽っていた など
内定取消しが無効となりやすいケース
- 志望動機を少し誇張して書いた
- アルバイト歴の期間を数ヶ月ずらして書いた
- 採用判断にほぼ影響しない軽微な経歴の不一致
ポイントは「その詐称が採用決定に決定的な影響を与えたかどうか」です。
4.【実務で使える】企業が取るべき対応フロー
実務で問題となりやすいため、企業が踏むべき手順を整理します。
① 事実関係を正確に確認する
・本人へヒアリング
・前職会社への問い合わせ(同意取得が必要)
・資格の有無を確認できる書類の収集
② 採用基準との関係を明確に整理する
・詐称が業務遂行能力に影響するか
・正確な情報を知っていれば採用したか?
③ 内定取消し以外の選択肢を検討する
・配置転換
・試用期間中の評価で判断 など
いきなり取消しを行うと「相当性欠如」とされることがあります。
④ 内定取消しを行う場合は書面化する
・取消し理由
・該当する就業規則・採用基準
・いつ発覚し、どう判断したか
→ これらを明確にし、後日の紛争リスクを軽減します。
5.【裁判例】大日本印刷事件(最高裁 昭和54年7月20日)
本件は、
高校中退を「高校卒業」と申告して内定を得たケース。
最高裁は次のように判断しました。
- 学歴は採用判断の重要要素
- 真実を知っていれば採用しなかったと認められる
- よって内定取消しには合理性・相当性がある
この判例は現在でも内定取消しの判断基準として非常に重要です。
6.【実例】実務でよくある相談と企業対応
◆事例1:必要資格を「保有している」と嘘をついていたケース
ある医療機関で、内定者が「医療事務資格あり」と申告していたが、実際には未取得であることが判明。
資格は採用の必須条件であったことから、
内定取消しは有効 と判断されました。
◆事例2:前職を「半年勤務」と申告→実際は2週間のみ
中小企業の営業職採用で発覚。
勤務期間の詐称はあったが、
・職歴が採用基準の決定的要素ではない
・人物面・適性評価で採用していた
として、
取消しは無効と判断された例もあります。
詐称事実だけで自動的に取消しができるわけではない点に注意が必要です。
7.まとめ(企業が取るべきスタンス)
内定取消しは可能だが、
「詐称内容の重要性」と「企業の判断過程」の2点が非常に重要。
- 重大な詐称 → 内定取消しが認められる
- 軽微な詐称 → 取消しは無効となる可能性大
判断に迷う場合は、早期に専門家へ相談することが望まれます。
【無料相談】内定取消し・採用トラブルでお困りの企業様へ
内定取消しは紛争リスクが高く、慎重な対応が必要です。
状況を踏まえ、最適な進め方をご案内いたします。
以下よりお気軽にご相談ください。