出張の多い会社では、「日当は必ず支払わなければいけないのか?」という質問をよくいただきます。
結論から言えば――
✅日当の支払いは、法律上“義務ではありません”
日当とは、出張に伴う 食費・雑費等の補填として支払う“実費弁償” の性格を持つものです。
そのため、
- 労働基準法
- 労働契約法
いずれにも “日当を支払わなければならない”という規定はありません。
つまり、会社が制度として設けない限り、支払い義務は発生しません。
✅ただし、「規程に定める」と義務が発生します
日当を含めた出張旅費のルールは、企業が自主的に定めるものですが、
- 就業規則
- 出張旅費規程
これらに「日当を支給する」と定めた場合、
その内容は労働契約の一部とみなされ(労働契約法第7条)、会社は規程に従った支払い義務を負います。
✔ よくあるリスク
規程が曖昧なまま日当を支払っている企業では次のような問題が発生します:
- 支給対象が不明確(例:半日出張は支給する?しない?)
- 金額が部署ごとにバラバラ
- 管理職の判断で支給/不支給が変わる
- 海外出張の扱いが未整備
- 労働者から「規程と違う」と指摘されトラブル化
「規程に書いていない」こと自体が、後の紛争につながるため注意が必要です。
【実務ポイント】正しい「出張旅費規程」のつくり方
規程に盛り込むべき代表的な項目は以下のとおりです。
✔① 日当の支給対象
- 日帰り出張のみ
- 宿泊を伴う場合
- 半日出張(支給する・しない)
- 海外出張はどうするか
✔② 金額の基準
例)
- 管理職:3,000円/日
- 一般職:2,000円/日
- 海外:5,000円/日
など、職位や行先で明確に区分。
✔③ 支給方法
- 出張承認後に支給
- 旅費精算と同時に支給
- 出張報告書の提出を条件とする など
✔④ 不支給となるケース
- 客先への訪問と通常勤務の区別が難しい場合
- 自宅から直接目的地へ向かったケース など
【事例】規程が曖昧だったためトラブルになったケース
■状況
製造業B社。営業担当が月 5〜10回の出張に行く勤務形態。
日当は「慣習」で支給していたが、規程には明記されていなかった。
ある社員が次のように申し出。
「私は毎回出張しているのに、同じ営業部のCさんは日当をもらっていない。
不公平ではないですか?」
■問題点
- 管理職の裁量で支給がバラついていた
- 半日出張の扱いを全員が誤解していた
- 「言った・言わない」でトラブルに発展
■社労士としての改善提案
- 出張旅費規程を新規作成
- 職位別・目的地別に日当額を明確化
- 半日出張の扱いも明記(支給:現地滞在4時間以上)
- 実費弁償=非課税扱いにするため、税務基準を確認
■結果
社員間の不満が解消され、支給基準が明確になり、トラブルがゼロに。
経理処理も統一され業務効率が向上した。
【根拠法令】
- 労働基準法 第89条(就業規則の作成義務)
- 労働契約法 第7条(就業規則の周知と労働契約内容)
- 労働契約法 第12条(就業規則違反の労働契約の無効)
✔まとめ(経営者が押さえるべきポイント)
| 内容 | ポイント |
|---|---|
| 日当の支払い義務 | ❌ 法律上の義務はない |
| 会社が任意で制度化した場合 | ⭕ 規程どおり支払う義務が生じる |
| トラブル防止のコツ | ✔ 出張旅費規程を明確に定める |
| 推奨 | ✔ 半日出張・海外出張の基準も明文化 |
規程を整備しておくことで、社員の納得感が高まり、労務トラブルも防止できます。
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