会社が負う「安全配慮義務」とは?|ひらおか社会保険労務士事務所
企業には、従業員が安心して働けるよう、生命・身体の安全を確保する義務(安全配慮義務) が法律で課されています。
これは単に労働基準法を守れば良いという話ではなく、従業員の心身の健康を総合的に守ること を意味します。
この記事では、
- 安全配慮義務とは何か
- 企業がどこまで対応しなければならないのか
- 実務で起こりやすいリスク
- 過労死に関する判例(電通事件)
をわかりやすく整理します。
1. 安全配慮義務とは?(労働契約法5条)
労働契約法第5条では、次のように規定されています。
使用者は、労働者がその生命及び身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、
必要な配慮をするものとする。
つまり企業は、
従業員が健康を害さないよう、業務量・労働時間・環境を適切に管理する法的義務
を負っています。
2. 「過労死」を防ぐために企業が行うべき具体的な対応
安全配慮義務は抽象的に見えますが、実務では次の内容が求められます。
■① 労働時間の適正な把握(必須)
- タイムカード・勤怠システムなど客観的な記録
- 管理監督者も対象
- みなし労働時間制でも実労働時間の把握が必要な場合あり
※「長時間労働なのに把握していない」という会社は、最もトラブルになりやすい部分です。
■② 過重労働につながる時間数の管理
以下を超える労働が生じていないか、月次でチェックする必要があります。
- 月45時間超の残業(原則)
- 月80時間超の残業(健康障害リスクが一気に高まるライン)
- 月100時間、水準として「過労死ライン」を超える危険領域
■③ 長時間労働者への医師の面接指導(法的義務)
- 月80時間超 → 本人の申請で医師面談が必須
- 研究開発業務で月100時間超 → 申請がなくても会社が必ず実施
面接指導の結果、医師が改善を求めた場合は、
会社は必ず就業上の措置を行わなければなりません。
■④ 業務量・配置の見直し
過重労働の原因が業務量や社内体制にある場合は、
- 人員・業務量の再調整
- 配置転換
- 残業の制限
- 休職や療養の検討
などを行う必要があります。
■⑤ メンタルヘルス不調の早期発見・相談窓口の設置
厚労省の指針でも明確に求められています。
- 相談窓口の設置
- ストレスチェック制度の実施
- 上司が不調の兆候を見逃さないための研修
- 相談内容の秘密保持
3. 【重要判例】電通事件 ― 過労死と安全配慮義務違反
「安全配慮義務」が強く認識されるきっかけとなったのが
電通事件(平成12年3月24日 最高裁) です。
■【事例】長時間労働を放置したため自殺に至ったケース
電通の新入社員が、連日の深夜残業と長時間労働 によりうつ病を発症し、自殺した事件です。
裁判所は次のように判断しました。
使用者は、従業員の業務遂行に伴う疲労や心理的負荷が過度に蓄積し、
心身の健康を損なわないよう注意する義務を負う。
つまり企業は、
- 危険な長時間労働を把握し、
- 適切な改善措置を講じること
を当然に求められます。
この義務を怠った場合「安全配慮義務違反」と判断され、損害賠償責任を負うことになります。
4. 【実務でよくあるトラブル例】
●事例A:管理職だからと放置 → うつ病発症
管理職Bさんが月100時間残業を継続。
「管理監督者だから残業時間は管理しない」という会社の方針でしたが、
結果としてBさんが体調を崩し休職。
→ 管理職であっても、健康管理を怠れば安全配慮義務違反 となる可能性が高い。
●事例B:「自己申告制の勤怠」で過小申告 → 過労死
実労働は月120時間残業だったが、
「会社に迷惑をかけたくない」という理由で50時間しか申告されていなかったケース。
→ 客観的記録(PCログ、入退室記録等)で把握していなかった会社に責任が及ぶ可能性。
●事例C:医師の面接指導を行わず悪化
80時間超の従業員がいたのに
「忙しそうだから声をかけづらい」という理由で面接指導を案内せず。
→ 制度を案内しなかった会社の責任 が問われたケースも。
5. まとめ
安全配慮義務は「当たり前の配慮」ではなく、
法律で明確に求められている企業の義務 です。
過労死・過重労働を防ぐためには、
- 労働時間の正確な把握
- 月次での過重労働チェック
- 医師面接指導の確実な実施
- 業務量・配置の見直し
- メンタルヘルス対策
を着実に行う必要があります。
企業がこの義務を適切に果たすことで、
従業員の健康を守り、働きやすい職場づくりにつながります。
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