従業員の重大な非違行為に対し、懲戒として「減給処分」を検討することがあります。
しかし、減給処分は 法律上の厳しい上限規制 があり、安易に実施すると「違法な減給」「無効な懲戒」と判断されるリスクがあります。
本記事では、 労働基準法91条に定められた減給のルール を中心に、実務で迷いやすいポイントを分かりやすく解説します。
1.減給処分に適用される「法律上の4つのルール」
① 1つの事案に対する減給は「平均賃金1日分の半額」が上限
例えば平均賃金が12,000円の従業員の場合、
1つの非違行為について減給できる上限は 6,000円 まで です。
これを超える減給は、法律で禁止されています。
② 複数事案があっても、1回の給与で控除できるのは「総支給額の10分の1」まで
例えば総支給額が300,000円の場合、
1回の給与で減給できる上限は 30,000円 まで。
複数の非違行為があって合計額が上限を超える場合は、
➡ 翌月以降に繰り越して減給することは可能
ただし、毎月「総支給額の10分の1」の範囲内でしか減給できません。
③ 同じ事案について繰り返し減給してはいけない(=一事不再理の原則)
1つの違反行為について、
「今月は2万円減給、来月も同じ件で2万円」
というように 複数回に分けて懲戒処分を課すことは違法 です。
処分は 1事案につき1回のみ。
④ 減給対象の行為が就業規則に定められていること
就業規則に「どのような行為が減給対象となるか」が明記されていなければ、
➡ 減給処分は無効 となります。
また、就業規則は労基署へ届出済みである必要があります(労基法89条)。
2.【具体例で理解】どこまで減給できる?(金額計算の例)
◆例1:1事案の減給額を計算
平均賃金:12,000円
➡ 上限は 6,000円
会社が 10,000円 の減給を命じても、6,000円までしか適法に控除できません。
◆例2:複数の違反行為があった場合
総支給額:300,000円
違反行為:3件
各事案の減給上限:6,000円
→ 合計 18,000円 が理論上の減給額
300,000円 × 1/10 = 30,000円(1回の給与で控除できる上限)
➡ このケースでは 18,000円すべて当月に減給可能。
◆例3:減給総額が上限を超える場合
総支給額:200,000円
違反行為:6件
各事案の減給上限:6,000円
→ 合計 36,000円
1回の給与で控除できるのは
200,000円 × 1/10=20,000円 まで。
➡ 当月は20,000円
➡ 残りの16,000円は翌月以降に繰り越し控除が可能
3.【実務でよくある事例と企業の対応ポイント】
事例①:無断欠勤3日+業務命令違反
飲食店で、従業員Aさんが
・無断欠勤を繰り返し
・上司の注意にも従わず
業務に重大な支障が出たケース。
会社の対応
- 無断欠勤と業務命令違反の「2つの事案」で懲戒手続き
- 平均賃金を基に上限を計算
- 減給総額を算定し、総支給額の1/10の範囲で控除
- 残額は翌月に繰越
➡ 違法のリスクなく適切に懲戒処分を実施できた。
事例②:就業規則に「減給対象」が明記されておらず、無効となったケース
小売業のB社では、従業員の遅刻が多発し、社長が給与から5,000円を控除。
しかし就業規則には減給の対象行為が具体的に定められていなかったため、
➡ 労基署から是正指導(違法な減給扱い)を受けた。
減給処分は必ず 就業規則の整備 → 労基署届出 → 従業員周知 が必要。
4.企業が必ず押さえるべきチェックポイント
✔ 減給は最も厳しい懲戒処分の一つ → 安易に実施しない
✔ 「平均賃金1日分の半額」「総支給額の1/10」の2つが最重要
✔ 就業規則に明記されていなければ無効
✔ 処分理由は書面化し、本人への通知文も整える
✔ 減給より指導・注意処分で代替できないかも検討
✔ 社内で感情的な処分は絶対にNG(不当労働行為のリスク)
懲戒処分は労務トラブルに発展しやすいため、慎重な対応が求められます。
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