社会保険に同時加入している「ダブルワークの従業員」について、A社とB社の両方で賃金が変動したものの、
それぞれの会社では2等級以上の変動がなかった場合、随時改定(=月額変更届)は必要なのか?
今回は、このような実務で迷いやすいポイントをわかりやすく解説します。
■ 結論:手続きは不要です(ただし「合算の等級」は確認が必要)
A社・B社それぞれで固定的賃金が変動しても、
各会社単独では「2等級以上の変動」に該当しない場合、随時改定は不要です。
(健康保険法44条・厚生年金法24条)
ただし、ダブルワークの被保険者は
複数会社で得た報酬の「合算額」で標準報酬月額を決定するため、
実務上は「合算の報酬額で2等級以上変動していないか」の確認が重要です。
■ なぜ手続き不要なのか(法律のルール)
健康保険・厚生年金では、複数事業所で働く人の標準報酬月額は次のように決まります。
✅「複数社の報酬の合算額」で標準報酬月額を決める
- 資格取得
- 定時決定
- 随時改定
- 産前産後休業・育休明け など
いずれも 各会社で算定 → 合算して1つの標準報酬月額にする という仕組みです。
👉 今回のポイント
A社でもB社でも「2等級以上の差」が出ていない限り、
随時改定の要件に該当しません。
そのため、
- A社 → 届出なし
- B社 → 届出なし
となり、各社とも月額変更届は不要です。
■ 【実務でよくある誤解】
「合算した結果 2等級以上変わっているなら、どちらかの会社で手続きが必要ですよね?」
👉 必要ありません。
随時改定は「各会社ごとの報酬で判断」するため、
合算額が2等級以上変動しても、個々の会社で条件を満たさなければ手続きは発生しません。
■ 事例で理解する:どんなケースが「不要」になるのか?
◆ 事例①:A社・B社ともに1等級以内の増額 → 手続き不要
| 改定前 | 改定後 | 差 | |
|---|---|---|---|
| A社 | 12等級 | 13等級 | +1等級 |
| B社 | 11等級 | 12等級 | +1等級 |
| 合算(参考) | 23等級 | 25等級 | +2等級 |
● 合算では +2 等級
→ しかし、随時改定の要件判定は「各会社」で行うため…
● 結果 → A社・B社ともに 随時改定なし
◆ 事例②:片方は変動なし・もう片方は +1 等級 → 手続き不要
| 改定前 | 改定後 | |
|---|---|---|
| A社 | 固定的賃金 そのまま(等級変動なし) | |
| B社 | +1等級 |
● 合算では等級が変わっても
→ どちらの会社も2等級以上変動していないため届出不要
■ 実務担当者が注意すべきポイント
▼① 合算額は「参考値」
あくまで標準報酬の等級決定に使いますが、
随時改定の要件判定には使いません。
▼② A社・B社間での情報共有が重要
ダブルワーク社員の社会保険管理は、
- 標準報酬決定通知書の送付先の調整
- 合算額の確認
- 保険料の按分
など、各社での連携が必要です。
▼③ どちらか一方だけ2等級以上変動した場合は要注意
その場合は「該当した会社のみ」随時改定が必要になります。
■ 根拠法令
- 健康保険法 第44条(報酬月額の算定の特例)
- 厚生年金法 第24条(報酬月額の算定の特例)
複数事業所勤務の被保険者については、上記の「合算・特例」のルールが適用されます。
■ まとめ
| 判断基準 | 必要? |
|---|---|
| A社またはB社が 単独で2等級以上の変動 | ✔ 随時改定が必要 |
| A社・B社ともに2等級未満の変動 | ✖ 手続き不要 |
| 合算で2等級以上変動した場合 | ✖(参考値。随時改定の判定には使わない) |
ダブルワークの従業員の随時改定は誤解が多い部分ですので、正しい基準で判断することが大切です。
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