近年、長時間労働を原因とした健康被害や過労死問題を受け、企業にはこれまで以上に「安全配慮義務」が求められています。
現場でしばしば相談を受けるのが、
「過労死ラインを超えそうな従業員から『もっと働きたい』と言われた。働かせても大丈夫でしょうか?」
というご質問です。
結論を先にお伝えすると——
■ 結論:本人が希望しても 働かせてはいけません
労働者本人が「大丈夫です、もっと働けます」と言ったとしても、
使用者の安全配慮義務(労働契約法5条)は免除されません。
企業は、労働者の生命・健康を守る義務を負っており、これは
本人の同意や希望によっても軽減されない絶対的な義務です。
万が一、過労死や重大な健康障害が発生した場合、
- 危険を認識しながら働かせた
- 適切な労働時間管理を行っていなかった
として、会社が 損害賠償責任を負う可能性があります。
■ 「過労死ライン」とは?
厚生労働省は、以下の時間外労働が健康障害リスクを大きく高めるとしています。
- 月80時間超
- 2〜6ヶ月平均で月80時間超
- 月100時間超
これらに該当する場合、企業は特に慎重な対応が必要です。
■ 【事例①】本人が「大丈夫」と言って働き続け、後日トラブルに発展したケース
製造業A社のケース
繁忙期で残業が多くなり、社員Bさんの残業時間が月90時間に到達。
会社は「本人が希望しているし大丈夫」と判断し、そのまま業務を継続。
しかし、その後Bさんが体調不良を訴え休職。
医師は「過重労働が原因」と診断。労災認定され、会社には
- 多額の損害賠償請求
- 監督署による指導
- 社内の管理体制に対する信用失墜
が発生しました。
ポイント
➡ 本人の同意があっても、企業は守られません。
➡ 「働きたい」という希望は、体調不良の自覚がない場合にも出やすい。
■ 【事例②】適切に対応し、長時間労働を解消したケース
IT企業C社のケース
エンジニアDさんが月80時間超の残業に到達。
本人は「まだやれます」と話していたが、会社は以下を実施。
- 健康リスクと会社の義務を丁寧に説明
- 業務の棚卸し→優先順位の見直し
- チーム内で業務を分担
- 必要部分は外注へ切り替え
- 管理職のマネジメント研修を実施
結果、残業は月40時間程度に改善し、業務効率も向上。
従業員の離職率も低下しました。
■ 企業が取るべき「実務対応ステップ」
① 本人に健康リスクを説明する
- 過労死ラインをわかりやすく提示
- 病気の前兆が見えないことも多いことを伝える
- 安全配慮義務が会社の法律上の義務であることを説明
※記録として面談内容を残すことが望ましい(面談記録シート等)
② 健康管理措置を実施する
- 産業医面談の実施
- 医師からの意見書の取得
- 必要に応じて勤務制限の指示
③ 業務の見直し・分担
- 優先順位の入れ替え
- 他の従業員との業務分担
- 外注化・システム化による効率化
④ 労働時間の上限管理(36協定の遵守)
- 36協定の範囲内か確認
- 特別条項を濫用しない
- 実績と計画を毎月チェック
⑤ 管理職に「長時間労働のリスク」を教育
過労を自己責任と考えてしまいがちな管理職も多く、
研修による意識づけは非常に重要です。
■ 法的根拠:労働契約法 第5条(安全配慮義務)
使用者は、労働契約に伴い、
労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ
労働できるように配慮する義務を負う。
➡ この義務は 労働者の希望によって消えるものではありません。
■ まとめ:本人が望んでも、働かせるのはNGです
- 過労死ライン付近の労働は極めて危険
- 本人の希望≠安全
- 会社の法律上の義務は免除されない
- 予防措置を取らないと損害賠償リスクが非常に高い
企業としては「働かせない」という判断が不可欠です。
長時間労働の是正は、従業員の健康だけでなく、企業の成長にもつながります。
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