対象者の基準・会社が行うべき流れをわかりやすく解説|ひらおか社会保険労務士事務所
働き方改革が進む中、企業に求められる安全配慮義務は年々強化されています。
特に 長時間労働者に対する「医師による面接指導」 は、法令で義務付けられた重要な制度です。
本記事では、
- 対象者の基準
- 会社に義務付けられている手続きの流れ
- 実務で注意すべきポイント
- よくある事例
をわかりやすく解説します。
1. 面接指導の対象となる人は?(労安法66条の8)
医師による面接指導が必要となる労働者は、以下の条件に該当する方です。
■(原則)時間外・休日労働が 月80時間超 の労働者
- 法律上、会社は労働時間を把握する義務があります。
- 月80時間を超えた労働者には、速やかに本人へ通知 しなければなりません。
- 労働者が申し出た場合、医師による面接指導を実施する義務 が発生します。
※管理監督者や事業場外みなし労働者も対象です(高度プロフェッショナル制度の対象者は除く)。
■(例外)研究開発業務従事者
研究開発業務に従事する労働者については、
月100時間超 の時間外・休日労働が発生した場合、
👉 本人の申出がなくても、企業が必ず面接指導を実施 しなければなりません。
2. 面接指導の目的
医師が以下の項目を確認し、心身のリスクを判断します。
- 労働時間・業務量
- 疲労の蓄積状況
- 睡眠時間・休養状況
- ストレスの有無
- 体調の変化(頭痛・動悸・抑うつ症状など)
医師の判断は 企業がとるべき措置 の基礎となります。
「面談しただけ」では会社の義務は終わりません。
3. 会社が行うべき実施の流れ(チェックリスト付き)
STEP1:労働時間を正確に把握する(必須)
- タイムカード・勤怠システムなどで客観的記録が必要
- 80時間超の労働者を毎月確認
STEP2:80時間超の労働者へ通知
「あなたは今月80時間を超えました。必要な場合、医師による面接指導を申請できます。」
といった通知を速やかに実施。
STEP3:労働者が申し出 → 会社が医師面接を手配
- 実施日時の調整
- 面談場所の設定(オンライン可)
STEP4:医師による面接指導の実施
医師が心身状態を確認し、会社は医師意見書を受領。
STEP5:就業上の措置を講じる(義務)
医師の意見に基づき、企業が対応を決定します。
例:
- 労働時間の短縮
- 残業の制限
- 業務量の調整
- 配置転換
- 休業措置の検討
STEP6:記録の保存(5年間)
- 面接結果
- 医師の意見書
- 実施状況の記録
4. 【事例】面接指導を実施しなかったためにトラブルとなったケース
■事例:面接指導を怠り、うつ症状が悪化したケース
ある企業で、管理監督者のAさんが月90~100時間の残業を継続していました。
勤怠管理は行われており、80時間超も会社が把握していたものの、
- 本人へ通知をしなかった
- 面接指導の案内もしなかった
結果としてAさんは心身の不調を発症し、休職へ。
その後、労働基準監督署の調査が入り、会社には安全配慮義務違反の疑いが生じました。
【ポイント】
面接指導は、労働者の申し出が前提の制度ですが、
会社が通知をしていなかった場合、制度の利用機会を奪ったことになり、責任を問われやすくなります。
5. 実務担当者が押さえるべきポイント
✔ 勤怠を“正確に”把握していない会社は、法令違反リスクが高い
✔ 「管理職だから」という理由で対象外にすることはできない
✔ 面接指導の結果を放置してはならない
✔ 毎月のチェック体制(80時間超の有無)は必須
✔ 医師意見を受けた就業上の措置を必ず記録する
面接指導は単なる「面談」ではなく、
過重労働による健康被害を未然に防ぐための重要な義務 です。
6. まとめ
長時間労働者への医師による面接指導は、
企業の安全配慮義務を果たすために欠かせない仕組みです。
- 月80時間超 → 本人申出で義務
- 研究開発業務は100時間超 → 申出不要で義務
- 実施後の就業上の措置まで行うのが企業の責務
健康トラブルが起きてからでは遅いため、
日頃の勤怠管理・早めの対応が最も重要です。