企業からよくご相談いただくのが、
「36協定で月80時間まで認められているなら、過労死の心配はないのですか?」
という質問です。
結論としては、
❗ 36協定の範囲内であっても、過労死認定される可能性があります。
36協定の上限規制と過労死ラインには関連がありますが、「36協定=安全ライン」ではありません。
実務ではこの点を誤解している企業が多く、労務リスクが高まる原因となっています。
この記事では、企業が知っておくべきポイントをわかりやすく整理します。
1. 36協定の「月80時間」は過労死ラインを参考につくられたもの
働き方改革関連法により、特別条項付き36協定の上限は次のとおり定められました。
- 単月の上限:80時間(休日労働を含む)
- 複数月平均:80時間以内(2~6ヶ月平均)
これは、脳・心臓疾患の労災認定基準における「過労死ライン」を参考につくられています。
▼ 過労死ライン(脳・心臓疾患の認定基準)
- 発症前2か月~6か月の平均で月80時間超の時間外労働
- または
- 発症前1か月で100時間超の時間外労働
つまり「月80時間」は、健康リスクが急激に上昇するラインであり、決して“安全な範囲”という意味ではありません。
2. 36協定内でも過労死認定されるケースがある
企業側が誤解しがちなポイントがこちらです。
「36協定を結んでいる=長時間労働させても大丈夫」ではありません。
労災認定では次のような点が判断されます。
🔎 過労死になる可能性があるのは、36協定違反とは別問題
- 月80時間以内でも、
1か月あたりの時間外労働が100時間超であれば過労死ラインを超えています。 - さらに、以下のような負荷要因も総合評価されます。
- 深夜勤務・交代勤務
- 不規則勤務・長時間移動を伴う業務
- 強い精神的緊張やクレーム対応
- 人員不足による過度な業務負荷
つまり、36協定の枠内であっても労災認定され得るということです。
3. 【実務でよくある事例】「36協定内なのに…」と認定されたケース
◆ 事例①:月78時間の残業でも労災認定
A社の営業職は、1か月の残業が78時間。
36協定の範囲内でしたが、以下の事情が加味されました。
- 長距離移動が多い
- 取引先クレーム対応による精神的緊張
- 夜間のトラブル対応が頻発
➡ 過重な業務負荷が認められ、脳梗塞が労災と認定。
◆ 事例②:80時間以内でも複数月平均が高く、労災が認められた
B社のシステムエンジニアは、毎月70〜80時間の残業が3か月続き発症。
- 単月80時間未満だが複数月平均で80時間超
- 夜間対応・休日出勤で生活リズムが崩れていた
➡ 業務起因性が強いとして認定。
◆ 事例③:「本人が希望した残業」でも認定
C社の製造職は、本人の申し出により残業したが、結果的に倒れた。
- 会社は「本人希望だから安全配慮義務はない」と主張
- しかし安全配慮義務は労働者の意思で免れない
➡ 会社の管理不足として労災認定・損害賠償義務が発生。
4. 企業が取るべき実務対応
✔① 月80時間を「絶対に超えないライン」として扱う
80時間は「限度」でなく「危険ライン」。
できれば 月45時間以内、繁忙期でも60時間以内が望ましい。
✔② 時間外労働が増えてきたら“予兆管理”をする
- 深夜勤務の増加
- ミスの増加
- 出勤態度の変化
- 表情が暗い、口数が減った
こうしたサインがあれば、早期に面談を。
✔③ 特別条項を乱発しない
- 「特別条項=便利な仕組み」ではありません
- 多用すると安全配慮義務違反になる可能性が高まる
✔④ 労働者本人が希望していても止める
労働者の同意は会社の義務を免除しません。
「働かせたら危ない」と判断したら、必ず制限することが必要です。
5. まとめ
🔍 36協定と過労死ラインの関係(結論)
- 36協定の上限(特に80時間)は過労死ラインを参考に設定されたもの
- しかし 36協定内でも過労死認定され得る
- 深夜勤務・精神的負荷なども総合評価される
- 企業は“法的上限”ではなく、“健康リスク”の観点で管理する必要がある
過重労働の問題は、企業の労務リスクの中でも最も重大な領域です。
安全配慮義務違反が認められた場合、数千万円単位の損害賠償になることも珍しくありません。
自社の働き方に不安がある場合は、早めに専門家へご相談ください。
【参考資料】
血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について(令和5年10月18日 基発1018第1号)
https://www.mhlw.go.jp/content/001157873.pdf
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