企業に「雇用継続の義務」はあるのかをわかりやすく解説|ひらおか社会保険労務士事務所
高齢者の就業意欲が高まるなか、
「65歳以降も働き続けたい」という相談を受ける企業が増えています。
しかし、
会社は必ず65歳以降も雇用し続けなければならないのか?
結論から言うと、
65歳以降の雇用は“努力義務”であり、企業に義務はありません。
この記事では、
- 65歳以降の雇用継続の法的扱い
- 70歳までの就業確保措置のポイント
- 実務で多い相談パターン
- よくあるトラブル事例
をわかりやすく整理して解説します。
1. 法律で義務付けられているのは「65歳までの雇用確保」
企業には、
65歳までの雇用確保措置 が義務付けられています(高年齢者雇用安定法9条)。
定年を60歳など65歳未満に定めている会社は、
次のいずれかを必ず実施しなければなりません。
■選択肢① 定年の引上げ(例:60歳→65歳)
■選択肢② 継続雇用制度の導入(再雇用制度)
■選択肢③ 定年制の廃止
👉 ここまでは “義務” です。
2. 65歳以降の雇用継続は「努力義務」
2021年改正により、
企業には 70歳までの就業機会の確保が努力義務 とされました(高年齢者雇用安定法10条の2)。
つまり、
「70歳まで必ず雇用しなければならない」という義務ではありません。
企業は、可能な範囲で次のような対応を検討すればよいとされています。
3. 70歳までの就業確保措置として認められる選択肢
法律で認められている選択肢は多様で、
必ずしも「従業員として雇用し続ける必要」はありません。
■1. 定年の引上げ(例:65歳→70歳)
■2. 定年の廃止
■3. 70歳までの継続雇用制度
- 再雇用契約
- 有期契約で年齢更新
■4. 業務委託契約への切替え
雇用ではなく、個人事業主として委託する形。
※実態として労働者性があると偽装請負の問題が生じるため慎重な設計が必要。
■5. 企業の社会貢献事業などへ従事する制度
- 地域活動
- 関連団体での活動
- 企業支援・教育活動
なども認められています。
→ 多様な選択肢の中から、企業の状況に合った形を選べばOKです。
4. 実務担当者が押さえておくべきポイント
✔ 希望者を必ず70歳まで雇用する義務はない
あくまで努力義務。
企業規模・業務内容により柔軟に判断できます。
✔ ただし基準を明確にして運用しないとトラブルに
再雇用者の選定基準が曖昧だと、
「差別だ」「不当な扱いだ」と訴えられるリスクがあります。
→ 就業規則に
- 再雇用基準
- 契約更新の条件
- 配置・賃金のルール
を整備することが重要。
✔ 70歳までの就業確保制度は、導入していなくても法律違反ではない
検討していること自体が努力義務の履行とされます。
5. 【事例】65歳以降の雇用継続で起きた実務トラブル
■事例:基準を明確にしていなかったため不公平と感じられたケース
C社では65歳定年、再雇用制度あり。
65歳を超えて「働き続けたい」と申し出た従業員Dさんがいました。
しかし会社は、以下の理由で再雇用しませんでした。
- 体力的に現場業務が難しい
- 若手育成に支障
一方で、同じ部門の別の従業員は再雇用されており、
Dさんは「なぜ自分だけ認められないのか」と不満を持ち、トラブルに発展。
調査の結果、
再雇用の基準が明文化されておらず
担当者によって判断が異なっていたことが原因でした。
👉 基準が曖昧なまま選別すると、不公平感が生まれやすい。
このケースでは、
- 再雇用基準の明確化
- 職務適正や勤務態度の評価基準の導入
などを行うことで改善されました。
6. まとめ
- 65歳までの雇用確保は“義務”
- 65歳以降〜70歳までは“努力義務”であり雇用義務ではない
- 雇用の継続だけでなく、業務委託や社会貢献活動など多様な形でもOK
- トラブル防止には、再雇用基準や契約条件の明確化が重要
高齢者雇用は、労務管理の中でも複雑なテーマです。
企業規模・業務内容・就業規則によって最適解が変わるため、
慎重に制度設計することが求められます。