― トラブルを防ぐために押さえておきたい基本ポイント ―
会社経営において、給与計算は避けて通れない重要な業務です。
「毎月なんとなく処理している」「経理や外部に任せきり」というケースも多いですが、実は給与計算は法令遵守と信頼関係の要となる業務です。
この記事では、経営者の方向けに
- 給与計算は「いつ」「何をするのか」
- なぜ専門性が求められるのか
- 実務でよくあるトラブル事例
を交えながら、給与計算の全体像をわかりやすく解説します。
1.給与計算は「いつ」行うのか
給与計算は、勤怠の締め日が到来したときに行います。
賃金締切日とは、給与計算の対象となる期間の最終日のことで、
- 毎月15日締め
- 毎月末日締め
など、会社が自由に定めることができます。
ただし、この賃金締切日は就業規則の絶対的必要記載事項です。
締切日が曖昧なまま運用していると、後々トラブルの原因になります。
2.給与計算で「やること」の全体像
給与計算は、単に「金額を計算する作業」ではありません。
大きく分けると、次の流れで進みます。
① 勤怠情報の集計
- 出勤・退勤時間
- 残業・休日出勤・深夜労働
- 欠勤・有給休暇・休職 など
勤怠情報が誤っていると、以降の計算すべてに影響します。
② 支給額の計算
- 基本給
- 各種手当(残業手当、休日出勤手当、深夜手当など)
特に割増賃金は、労働基準法で割増率が定められており、
誤ると法令違反になるおそれがあります。
③ 控除額の計算
- 社会保険料(健康保険・厚生年金)
- 雇用保険料
- 所得税・住民税
保険料率の改定(例:健康保険料は原則毎年3月改定)にも注意が必要です。
④ 差引支給額(手取り)の確定
支給額から控除額を差し引き、最終的な支払額を決定します。
⑤ 給与支払い・帳簿の作成
- 給与明細書の作成・交付
- 賃金台帳の作成(全従業員分・作成義務あり)
これら一連の流れが、給与計算業務の全体像です
3.給与計算で重要な「2つの基本原則」
(1)ノーワーク・ノーペイの原則
賃金は、労働の対価として支払われるものです。
そのため、原則として労働を提供していない時間については、賃金支払い義務はありません。
ただし、以下は例外です。
- 会社都合による休業(休業手当)
- 年次有給休暇
- 法令で保障された休業・休暇
「ノーワーク・ノーペイだから払わなくていい」と単純に判断するのは危険です。
(2)賃金支払いの5原則
労働基準法では、賃金支払いについて次の5原則が定められています。
- 通貨払いの原則(原則は現金)
- 直接払いの原則(本人に支払う)
- 全額払いの原則(勝手な控除は禁止)
- 毎月1回以上払いの原則
- 一定期日払いの原則
これらは、従業員の生活を守るための最低限のルールです。
違反した場合、行政指導や罰則の対象となる可能性があります。
4.【事例】給与計算ミスがトラブルに発展したケース
ケース:残業手当の計算誤り
ある中小企業で、
「基本給が高いから残業代は不要」と誤解し、
残業手当を支払っていませんでした。
その後、従業員が労基署に相談。
結果として、
- 未払い残業代の支払い
- 是正勧告
- 社内の信頼関係の悪化
につながってしまいました。
👉 経営者が給与計算の基本を理解していれば、防げたトラブルです。
5.経営者が押さえておきたい実務ポイント
- 勤怠情報の正確性がすべての土台
- 割増賃金・控除計算は「慣れ」で判断しない
- 就業規則・賃金規程と実務がズレていないか定期的に確認
- 担当者任せにせず、経営者も全体像を把握する
給与計算は、労務管理の中でも最重要業務のひとつです。
6.まとめ
給与計算は、
✔ 従業員の生活を支える
✔ 会社への信頼を左右する
✔ 法令遵守が強く求められる
非常に重要な業務です。
「毎月やっているから大丈夫」ではなく、
正しい知識と仕組みで運用できているかを、ぜひ一度見直してみてください。
▼POINT
※ 給与情報は極めて機密性の高い個人情報です。
取扱いには十分注意し、守秘義務を徹底しましょう。