こんにちは。ひらおか社会保険労務士事務所です。
近年、いわゆる「バイトテロ」や、匿名掲示板・SNSでの誹謗中傷、うっかり投稿による情報漏えいなど、SNS発の信用毀損が事業に大きな影響を及ぼす場面が増えています。
本記事では、発生時の初動、類型別の留意点、懲戒・人事対応の注意、警察・広報対応、そして予防策までを実務で使える形で整理しました。
まずは全体像(アウトライン)
- 信用毀損行為の類型
- 行為者への指導と削除命令の可否
- 懲戒・人事評価・損害賠償・シフト調整の注意点
- 行為者以外(顧客・警察・メディア等)への対応
- 予防と再発防止(規程・教育・運用)
発生直後:初動24時間チェックリスト(保存版)
- 🧷 証拠保全:URL、投稿日時、スクリーンショット(投稿・プロフィール・コメント・拡散状況)。可能なら投稿IDやアーカイブURLも確保。
- 🧭 事実確認:店舗・部署・日時・関与者・撮影可否ルールの有無。
- 🛑 拡散抑止:社内周知→関係者の拡散禁止(私的端末も含む)。
- 📩 削除要請:投稿者特定済みなら任意削除の合意形成。特定困難ならプラットフォームの報告窓口へ。
- 👥 顧客影響の有無:安全・衛生・個人情報・取引先への影響を一次評価。
- 🧑⚖️ 法的ルート検討:開示請求・削除請求の要否、刑事(信用毀損罪・業務妨害罪・名誉毀損罪)対応の見込み。
- 🗣️ 広報方針:プレスリリース要否、店頭・Web掲示の準備。
- 🗂️ 社内処理:関係者ヒアリング記録、行為者の業務一時外し(必要最小限)。
24–72時間で、削除対応・顧客連絡・社外説明・社内処分方針の骨子まで固めるのが理想です。
1. 信用毀損行為の主な類型と実務の勘所
① バイトテロ型(店内での不適切言動を撮影・投稿)
- 特定容易:映像・店内の特徴から店舗・人物を特定→ヒアリング。
- 規程の書き方:
- 抽象規定…「会社の信用を毀損する言動を行ったとき」
- 具体規定…「会社の内外を問わず、SNS等で信用を毀損する投稿を行い、又はその助力をしたとき」
- 初動:即時の任意削除合意/出勤停止の要否は影響度で判断。
② 誹謗中傷型(匿名掲示板・SNSでの中傷)
- 特定困難:発信者情報開示や削除請求を視野。費用・期間が掛かるため費用対効果を事前評価。
- 並行策:検索結果抑止・危機広報も検討。
③ 過失による情報漏えい型(デスク写真等の映り込み)
- 削除容易:投稿者特定・任意削除・再発防止教育へ。
- 個人情報対応:影響評価→本人連絡・監督官庁報告の要否検討(業種・件数次第)。
④ 公益通報型(不正是正目的の情報公開)
- 要注意:公益通報保護が及ぶ可能性。一律の懲戒はリスク。社内窓口の整備・適正調査・報復禁止を徹底。
⑤ その他(顧客への私的DM、炎上投稿と所属の紐づき等)
- 個人の振る舞いが会社へ直結。SNSポリシーで私的アカウントの記載やプロフィール管理もルール化。
2. 行為者への指導・削除命令の可否
- 原則:表現の自由とのバランス。信用毀損箇所の削除に限るのが基本。
- 就業規則に根拠条文があれば、業務命令として削除指示の正当化が容易。
- 引用/リポストでも同視され得るため、再投稿も対象に。
匿名アカウントの強制開示命令はプライバシー侵害リスク大。任意同意が得られない場合は法的手続で対応。
3. 不利益措置の実務(懲戒・人事・賠償・シフト)
懲戒
- 就業時間外であっても、企業秩序への実害や重大なおそれが立証できれば処分可能。
- 条文の具体性(罪刑法定主義類似の原則)と処分の相当性(背信性・拡散度・被害額等)を丁寧に詰める。
人事評価・降格
- 二重処分回避:懲戒と別に行うなら、評価項目を事前定義
- 例)「会社の信用を毀損する言動の理解」「SNS掲載の事前承認ルールの理解」等
損害賠償
- **回収見込み・制限原理(報償責任/危険責任)**を踏まえ、和解(示談)での解決が現実的。弁護士関与を推奨。
シフト調整
- 制裁目的の大幅減は違法リスク。勤務形態・雇用契約の実態を踏まえ、必要最小限の運用に。
4. 行為者以外への対応(警察・広報・顧客)
警察
- 信用毀損罪・業務妨害罪・名誉毀損罪の検討。
- 名誉毀損は親告罪(6か月)。被害届・告訴は交渉カードとしての使い方も。
広報(プレス/店頭掲示)
- 事実関係・謝罪・処分・安全確保策を簡潔明瞭に。調査継続時はフォローアップ予告。
- 不十分な説明・矮小化・半端な謝罪は火に油。専門家レビュー推奨。
5. 予防と再発防止(仕組み化が最強)
就業規則・社内ルールの必須条文(例:転載OK)
〔服務規律〕
- 従業員は、職務内外を問わず、会社の名誉・信用を毀損し、又はそのおそれのある言動を行ってはならない。
- SNS・掲示板その他の媒体に会社情報を掲載する場合は、事前に所属長の承認を得ること。
- 会社又は取引先等の機密・個人情報を漏えいしてはならない。
〔懲戒事由〕
- SNS等において、会社の信用を毀損する内容又は機密情報の漏えいにつながる内容を投稿し、若しくはこれに加担したとき。
- 当社の削除命令に正当理由なく従わないとき。
〔報告義務・協力義務〕
- 当該投稿を認知した場合、速やかに会社に報告し、調査に協力すること。
教育・運用
- 年1回のSNS研修(他社事例の共有・炎上コストの体感)
- 承認フロー(広報・法務・個人情報保護)
- 内部公益通報窓口の周知と報復禁止の徹底
事例で学ぶ(実務イメージ)
事例①:厨房での不適切動画(バイトテロ)
- 対応:証拠保全→即日ヒアリング→任意削除合意→一時的に接客から外す→店頭掲示とWebお詫び→衛生再教育→懲戒(戒告)
- ポイント:衛生面の安全確保措置を分かりやすく公表し、再発防止策まで一枚で示す。
事例②:匿名掲示板での社長中傷(事実無根)
- 対応:削除申請→発信者情報開示の可否検討→検索抑止策→プレスは出さずFAQ内で事実の説明
- ポイント:費用対効果を評価し、社内動揺の沈静化(全社説明・相談窓口)を優先。
事例③:デスク写真に顧客名簿が映り込み(過失)
- 対応:即時削除→影響評価→関係者連絡→個人情報取扱い再教育→評価は注意・教育中心
- ポイント:過失・拡散度・実害の三要素で処分強度を調整。
社内フロー(雛形)
- 通報受付(店長・管理職・コンプラ窓口)
- 証拠保全/一次評価(安全・個人情報・取引影響)
- 当事者ヒアリング(メモ必須)
- 削除合意→未済なら法的ルート検討
- 顧客・取引先・関係当局への連絡判断
- 広報方針決定(出す/出さない・掲示/FAQ)
- 処分案・人事評価案の審査(法務・人事・経営)
- 再発防止(規程改定・教育・監査)
よくある質問
Q. 就業時間外の私的投稿でも処分できますか?
A. 企業秩序への実害や重大なおそれが立証できれば可能。条文の根拠と処分の相当性が鍵。
Q. 懲戒と降格を両方して良い?
A. 二重処分回避の観点から、評価項目の事前設計で「懲戒とは別の人事裁量」であることを明確に。
Q. 警察へは必ず届ける?
A. 義務ではありません。交渉カードとしての位置づけを含め、被害状況と見込みで判断。
まとめ
SNS等の信用毀損はスピード×エビデンス×運用力が勝負。
「規程・教育・初動フロー」を平時から整え、いざという時に迷わず動ける仕組みを作りましょう。
規程改定(服務・懲戒・SNSポリシー)、教育資料、初動チェックリスト、プレス文面の雛形一式をご用意できます。