労務管理

【実務で迷いがち】社員旅行中の賃金は支払う必要がある?

「社員旅行って勤務扱い?」「給料を払うべき?」
──そんなご質問を企業の方からよくいただきます。
実は、社員旅行が「労働時間」にあたるかどうかによって、賃金支払いの要否が変わります。

■ 1.判断のポイントは「業務性」と「強制性」

社員旅行中の賃金支払いを検討するうえで、
次の2つの要素が重要になります。

  1. 社員旅行の性質(業務性の有無)
  2. 参加の強制性の程度

社員旅行が「業務の一環」と評価される場合や、
実質的に「参加が義務」である場合には、労働時間に該当し、賃金の支払いが必要です。

■ 2.法的な考え方:労働時間の定義

労働時間とは、

「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」

とされています。
(最高裁・三菱重工業長崎造船所事件 平成12年3月9日)

つまり、社員旅行中の行動が会社の指揮命令に基づくものであれば、
たとえ“旅行”の名目であっても、労働時間に該当する可能性があります。

■ 3.判断基準(チェックポイント)

次のような要素を総合的に判断します。

チェック項目労働時間に該当する可能性
参加が実質的に強制されている(欠席で評価が下がる等)高い
旅行中に研修・会議・表彰式など業務的要素がある高い
会社が費用を全額負担し、スケジュールも指示している中程度
完全に自由参加で、レクリエーション中心低い
参加・不参加で人事評価に影響がない低い

■ 4.【事例紹介】三菱重工業長崎造船所事件(最判 平成12年3月9日)

〈概要〉

労働組合主催の行事に会社が協賛し、社員が参加したケース。
一部社員が「行事中も労働時間にあたる」と主張しました。

〈裁判所の判断〉

最高裁は、行事中の活動が会社の指揮命令下にあったとはいえないとして、
労働時間には該当しないと判断しました。

この判例は、社員旅行や社内行事が労働時間に該当するかを判断する上での
重要な指標とされています。

■ 5.【実務事例】中小企業C社のケース

C社では、年1回の社員旅行を実施しています。
旅行中は自由行動が多く、参加も任意。
ただし、全員に「参加を推奨」する雰囲気があり、欠席しづらい状況でした。

この場合、形式的には任意でも、
「実質的な強制性」が認められると労働時間と評価されるリスクがあります。

C社ではその後、

  • 案内文に「完全に任意です」と明記
  • 欠席による不利益がないことを説明
  • 勤務時間外として処理

といった対応を行い、トラブルを防止しました。


■ 6.実務アドバイス:トラブル防止のための工夫

  • 案内文に「自由参加」である旨を明示
    → 「不参加による不利益は一切ありません」と明記する
  • 業務指示的な内容(会議・報告など)は避ける
    → 業務関連要素が強いと“労働時間”に見なされるリスク
  • 費用負担・拘束時間のバランスを明確に
    → 社員の自主的な参加を重視する姿勢を示す

■ まとめ

社員旅行中の賃金支払いは、
「業務性」と「強制性」がポイントです。

  • 参加が任意で業務と無関係 → 賃金支払い不要
  • 参加が事実上強制・業務関連性が強い → 賃金支払いが必要

形式だけでなく実態で判断されるため、
企画段階から文面・運営方法を慎重に検討することが重要です。


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