~定年再雇用の法的注意点と実務対応~
1.相談の背景
定年を迎える従業員の中には、勤務態度や協調性に問題があるケースもあります。
このような場合、会社として「フルタイムではなくパート・アルバイトとして再雇用したい」と考えることは珍しくありません。
では、素行が悪い従業員を、定年後にフルタイムではなく短時間勤務として再雇用することは法的に認められるのでしょうか。
2.結論:フルタイム以外でも再雇用は可能
結論から言えば、定年再雇用者を必ずフルタイムで雇用する必要はありません。
✅ 法的根拠
高年齢者雇用安定法第9条では、企業に対して次のいずれかの措置を義務づけています。
- 定年の引上げ
- 継続雇用制度の導入(65歳まで)
- 定年制の廃止
つまり、雇用を確保すること自体が目的であり、
「従来と同一条件で再雇用しなければならない」とまでは定められていません。
よって、勤務時間や賃金などを変更し、
パート・アルバイトとして再雇用することも可能です。
3.注意点:不当な目的による条件変更はNG
一方で、再雇用の際に注意すべきなのは、「変更の目的」と「合理性」です。
❌ 権利濫用とみなされるケース
たとえば次のような場合は、
再雇用拒否や条件引下げが権利の濫用(違法)と判断されるおそれがあります。
- 素行不良な従業員を「辞めさせるため」にわざと不利な条件を提示した
- 人間関係の悪化など、客観的な理由がないまま勤務時間を極端に短縮した
- 他の再雇用者と比べて著しく低い賃金を設定した
再雇用契約は、企業裁量が認められる範囲内での合理的な条件変更でなければなりません。
4.【事例で見る】再雇用条件をめぐる裁判例
【事例①】再雇用拒否が無効とされたケース
ある企業で、定年後再雇用を希望した従業員に対し、
「勤務態度が悪い」との理由で再雇用を拒否したところ、裁判所は次のように判断しました。
裁判所の判断(東京地裁 平成21年判決)
定年後の継続雇用は企業の裁量に委ねられる部分があるが、
業務上重大な支障があるなどの合理的理由がない限り、
一律に再雇用を拒否するのは不当である。
👉 実務ポイント:
再雇用を拒否する場合は、客観的な証拠(勤務評価・指導記録など)が必要です。
【事例②】勤務条件の引下げが有効とされたケース
定年後も引き続き勤務を希望した従業員に対し、
会社が「週3日・時給制」での再雇用を提示した事案では、
裁判所は「会社の経営状況や職務内容の変化を考慮すれば合理的」として有効と判断しました。
👉 実務ポイント:
勤務日数・賃金を減らす場合でも、業務内容や責任範囲の変化を丁寧に説明することで、トラブルを防ぐことができます。
5.実務での対応ポイント
| チェック項目 | 解説 |
|---|---|
| ✅ 就業規則・再雇用規程の整備 | 「再雇用後の勤務条件は別途定める」と明記しておく |
| ✅ 評価記録の保存 | 勤務態度・指導内容など、客観的な記録を残す |
| ✅ 再雇用契約書の作成 | 勤務日数・賃金・契約期間を明確に記載 |
| ✅ 説明・同意のプロセス | 再雇用条件の変更理由を本人に説明し、書面で同意を得る |
| ✅ 他の再雇用者との整合性 | 同様のケースで不公平が生じないように注意 |
6.トラブル防止のための一言アドバイス
- 「素行が悪いから短時間勤務にする」といった説明は避けましょう。
- 必ず業務上の必要性(職務内容・責任・組織構成など)を根拠に説明することが大切です。
- 再雇用時の面談記録や同意書は、後日のトラブル防止に有効です。
7.まとめ
- 定年再雇用者をパート・アルバイトとして再雇用することは可能。
- ただし、不当な目的での条件引下げは権利濫用となるおそれあり。
- 再雇用制度の運用は、就業規則・再雇用規程の整備と説明責任が重要です。
📘 根拠法令
- 高年齢者雇用安定法 第9条(高年齢者雇用確保措置)
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