労務管理

【実務解説】賃金控除の協定を結べば、どんな費用でも天引きできる?

給与からの「天引き(賃金控除)」について、
「労使協定を結んでいれば、どんな費用でも差し引ける」と誤解されているケースが少なくありません。

しかし、実際には労働基準法により天引きできる範囲は明確に制限されています。
今回は、社会保険労務士の立場から、実務で注意すべきポイントを解説します。

◆ 賃金からの天引きが認められるのは原則2つだけ

労働基準法第24条は、賃金の全額払いを原則としています。
そのため、賃金から控除(天引き)できるのは、次の2つの場合に限られます。

区分内容具体例
① 法令で定めがある場合法律で天引きを認めているケース所得税・住民税、社会保険料、労働保険料 など
② 労使の書面による協定がある場合使用者と労働者代表が書面で協定した場合組合費、社宅費、社員食堂費 など

◆ 書面協定があっても「何でも控除できる」わけではない

たとえ労使間で「賃金控除の協定書」を結んでいたとしても、
すべての費用を天引きできるわけではありません。

昭和27年の通達(基発675号)および平成11年の通達(基発168号)では、
以下のように示されています。

「購買代金、社宅、寮その他の福利厚生施設の費用、社内預金、組合費など、
事理明白なものについてのみ、賃金控除協定による天引きを認める趣旨である。」

つまり、労働者にとって当然理解・納得される内容(事理明白なもの)に限り、
控除が可能ということです。


◆ 【注意】トラブルになりやすい天引き例

天引き内容判断の目安
制服・作業服代労使協定があり、費用が妥当であれば可能(ただし自己負担割合に注意)
弁償金・損害賠償金原則として不可(損害があっても給与天引きは違法の可能性あり)
罰金・ペナルティ一切不可。就業規則上の「制裁金」も法的制限あり
社内イベント費・懇親会費任意参加かつ同意が明確でない場合は不可

このように、「協定があるからOK」ではなく、内容の妥当性と本人同意の有無がポイントです。

◆ 【実務事例】B社(サービス業)のケース

サービス業のB社では、制服代・社内懇親会費を賃金から控除していました。
労使協定を締結していたものの、懇親会は“任意参加”であり、
実際には不参加の社員からも費用を天引きしていたことが発覚しました。

結果として、労働基準監督署から「不当な賃金控除」と指摘を受け、
対象者へ返金対応を行うことになりました。

その後、同社では以下の改善を行いました。

  • 協定内容を「事理明白なもののみに限定」
  • 懇親会費など任意の支払いは「本人同意書」を別途取得
  • 賃金控除協定書を毎年見直し、従業員代表選出手続きを明確化

このように、協定内容の見直しと運用の徹底がトラブル防止につながります。


◆ まとめ:協定よりも「内容の妥当性」が重要

賃金控除は、労働者の生活に直接関わる重要事項です。
書面による協定があっても、次の2点を守らなければ違法となるおそれがあります。

✅ 控除の対象が「事理明白」な費用であること
✅ 労働者本人の同意・理解が確実にあること

制度を運用する際は、協定書の見直しと説明体制を整えておきましょう。


根拠法令・参考情報

  • 労働基準法 第24条(賃金の支払)
  • 昭和27年9月20日 基発675号
  • 平成11年3月31日 基発168号

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