労務管理

【実務解説】出向者の社会保険は「出向元」?「出向先」?加入先の判断ポイントをわかりやすく解説|ひらおか社会保険労務士事務所

結論

出向者の社会保険(健康保険・厚生年金保険)は、
「必ず出向元で加入する」とは限りません。

加入先は、

💡 主として賃金を支払う事業所(出向元・出向先のいずれか)
によって決まります。

出向とは?

出向とは、従業員が在籍している会社(出向元)との雇用関係を残したまま、
別の会社(出向先)で一定期間勤務する制度です。

出向には大きく分けて次の2種類があります。

区分内容
在籍出向出向元との雇用関係を維持したまま出向先でも働く形態(最も一般的)
転籍出向出向先との新たな雇用契約を結び、出向元との関係が終了する形態

今回の記事では、「在籍出向」の場合を前提に解説します。

社会保険の加入先の判断基準

出向者の社会保険の加入先は、
「主として賃金を支払う事業所」がどちらかによって決まります。

① 賃金の全部または大部分を出向元が支払う場合

出向元で社会保険に加入します。

たとえば、給与の全額を出向元が支払っており、出向先からは負担金として支払いを受けているような場合は、出向元での被保険者資格が継続します。

② 賃金の全部または大部分を出向先が支払う場合

出向先で社会保険に加入します。

出向先から直接給与が支払われ、勤務実態も出向先にある場合は、出向先での加入が適切です。

③ 出向元と出向先の双方が賃金を支払う場合

→ 「二以上事業所勤務届」の提出が必要です。

どちらの会社を「主たる事業所」として社会保険を適用するかを選択し、
その事業所を管轄する年金事務所に届け出を行います。

この届出を怠ると、後から資格の訂正や保険料の遡及徴収が必要になるケースもあるため注意が必要です。

実務でよくあるケースと対応方法

【事例①】出向元が給与を支払い、出向先が負担金を支払うケース

状況

  • 出向元:給与支払いを継続(例:30万円/月)
  • 出向先:出向負担金として同額を出向元に支払う
  • 出向契約:在籍出向

結果
→ 「賃金の支払主体」は出向元のため、出向元で社会保険加入を継続します。

実務ポイント
出向先での労働実態があっても、「給与の支払い元」が出向元である限り、保険の資格は変更しません。

【事例②】出向先で給与支払い、出向元から一部手当支給あり

状況

  • 出向先:給与25万円を支給
  • 出向元:在籍手当3万円を支給
  • 双方が一部ずつ賃金を支払う形態

結果
→ 「二以上事業所勤務届」の提出が必要。
どちらを主たる勤務先とするかを選択し、年金事務所へ届出を行います。

実務ポイント
賃金額だけでなく、勤務実態・指揮命令関係・人事権の所在も勘案して判断します。
特に大企業グループ内の出向では、実務上このケースが多く見られます。

【事例③】転籍出向(出向元との雇用関係終了)

状況

  • 出向先と新たな雇用契約を締結
  • 出向元との雇用契約は終了

結果
→ 出向先で社会保険に新規加入(転籍扱い)。
 出向元では資格喪失届を提出します。


実務担当者が注意すべきチェックポイント

  • 出向契約書で「賃金支払い主体」が明記されているか
  • 出向者の給与計算・支払元はどちらの会社か
  • 出向手当・在籍手当の取扱いは賃金に含まれるか
  • 出向契約が在籍型か転籍型かを明確に区別しているか
  • 「二以上事業所勤務届」の提出要否を確認しているか

関連届出書類

書類名提出先提出のタイミング
資格取得届/資格喪失届年金事務所出向元・出向先の保険加入状況が変わるとき
二以上事業所勤務届年金事務所出向元・出向先の双方から賃金支払いがあるとき
出向契約書双方で締結・保存出向時(社内文書として保管)

根拠法令・参考情報


まとめ

賃金の支払主体加入すべき事業所
出向元が全額支払い出向元で加入
出向先が全額支払い出向先で加入
双方が一部ずつ支払い二以上事業所勤務届を提出して選択

初回相談は無料です

出向契約や社会保険の手続きは、実務上の誤りが多い分野です。
出向契約の見直しや保険料の負担区分に不安がある企業様は、ぜひ一度ご相談ください。

👉 無料相談・お問い合わせはこちら