企業が避けて通れない「年金事務所による調査」。
指導内容は毎年傾向があり、事前に把握しておけばリスクを大きく減らすことができます。
本記事では、日本年金機構が公開する
「年金制度説明会【調査指摘・改善指導事例集】」
に基づき、実務で特に多い指摘ポイントをわかりやすく紹介します。
✔ 年金事務所がよく指摘する3つのテーマ
年金事務所の調査指摘は大きく次の3つに分類されます。
- 被保険者資格取得届の誤り
- 被保険者報酬月額変更届の誤り(随時改定)
- 被保険者報酬月額算定基礎届の誤り(算定)
それぞれの中には複数のよくある事例があります。
実務で使える改善ポイントと併せて紹介します。
① 被保険者資格取得届に関する指摘事例
■ 事例1:取得日の誤り
【指摘内容】
入社日と資格取得日が一致していなかった(アルバイトで入社から数日後に提出)。
【改善ポイント】
- 社保の取得日は「採用日(労働契約開始日)」
- 週20時間以上、1年以上勤務見込(短時間特例対象なら別要件)を満たすか入社時に必ず確認
- 入社時点で書面の雇用契約書に勤務時間を明記する
■ 事例2:短時間労働者の加入漏れ
【指摘内容】
従業員数要件を満たす企業なのに、週20時間以上働くパートを未加入のまま。
【改善ポイント】
- 従業員数101人以上(令和6年10月以降は51人以上)なら対象
- 扶養内であっても加入要件を満たせば加入が必須
- シフト制の場合は「所定労働時間」で判断することに注意
② 被保険者報酬月額変更届(随時改定)の指摘事例
■ 事例3:定時昇給後の随時改定漏れ
【指摘内容】
昇給があっても「3か月の平均で2等級以上変動」を確認せず、手続き漏れ。
【改善ポイント】
- 昇給・降給・手当変更があれば「随時改定の要件」を必ずチェック
- 扶養手当など固定的賃金の変動も対象
- 月額変更届の提出時期は「変動から4か月目」
■ 事例4:支給形態の誤り
【指摘内容】
残業代を誤って固定的賃金として扱い、随時改定の対象にしていた。
【改善ポイント】
- 固定的賃金:基本給・役職手当・通勤手当 など
- 非固定的賃金:残業代・深夜手当・休日手当 など
- 給与規程で固定手当を明確にすることが重要
③ 被保険者報酬月額算定基礎届(算定)の指摘事例
■ 事例5:対象月の誤り(4・5・6月)
【指摘内容】
一時的に休業や残業の多い月を除外したり、誤った月で算定していた。
【改善ポイント】
- 基本は「4月・5月・6月」に支払った賃金
- 休業が30日以上の月は除外
- 除外する場合、必ず「除外理由」を記録しておく
■ 事例6:通勤手当の年払い分の按分漏れ
【指摘内容】
通勤手当を年払いで支給していたが、算定に按分していなかった。
【改善ポイント】
- 1年分を12で割って月額に換算する
- 通勤手当の支給形態は算定前に確認する
■ 事例7:出勤簿と賃金台帳の不整合
【指摘内容】
賃金台帳の労働時間と出勤簿の時間が一致しておらず、判断が困難。
【改善ポイント】
- 労働時間の記録は「出勤簿を基準」に一元化
- 勤怠システム導入で人的ミスを防ぐ
- パートの時給変更時期も記録に残す
④ その他の実務的によくある指摘
■ 事例8:兼務者の報酬の扱い
【指摘内容】
役員兼従業員の報酬の取り扱いが不明確(役員としての報酬のみ算定されていた)。
【改善ポイント】
- 「役員報酬」と「従業員としての給与」は別扱い
- 兼務届の提出、職務内容の明確化が必須
✔ 年金事務所の調査に備えて企業がすべきこと
- 入社時フローの整備(加入要否チェックリスト)
- 給与改定時のルール化(随時改定チェック表)
- 算定前の賃金データの点検
- 勤務時間管理の一元化(勤怠・賃金・契約)
- 社労士への事前相談でリスク低減
調査は毎年確実に行われます。
「正しく提出できているか」の確認は、企業のリスク管理にも直結します。
✔ まとめ|調査対応は“事前準備”で大きく変わる
年金事務所の調査でよく指摘される内容は、
いずれも「基本的な届出」の誤りや漏れが中心です。
しかし、これらは
- 社内フローの整備
- 毎月の給与計算でのチェック
- 社労士による定期点検
で確実に予防できます。
社会保険の手続きは一度間違うと過去にさかのぼって修正が必要になるため、
早めの対策をおすすめします。
初回相談は無料です。お気軽にご相談ください。