在職老齢年金の仕組みをわかりやすく解説|ひらおか社会保険労務士事務所
60歳を迎えても「まだ働きたい」「年金をもらいながら収入を確保したい」という方は増えています。
しかし注意しなければならないのが 在職老齢年金 の仕組みです。
一定以上の収入がある場合、
もらえるはずの老齢厚生年金が一部または全部支給停止となる
可能性があります。
この記事では、専門知識がなくても理解できるよう、
在職老齢年金のルールをわかりやすく解説し、
企業実務にも役立つポイントをまとめました。
1. 60歳以降も働くと、年金はどうなる?
60歳で老齢厚生年金(報酬比例部分)の受給権が発生します。
その後、
厚生年金に加入して賃金を得て働き続ける場合、
「賃金」と「年金」の合計額が一定基準を超えると、
在職老齢年金により 年金の全部または一部が支給停止 されます。
2. 支給停止となる仕組み(在職老齢年金)
支給停止の判定には、以下の2つを合計します。
■(1)基本月額
老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額
※加給年金は除く
■(2)総報酬月額相当額
「給与(標準報酬月額)」+「賞与(過去1年の標準賞与額÷12)」
これらの合計が
支給停止調整額(2025年度は51万円)
を超える場合、超えた部分の 1/2 が年金から減額 されます。
3. 支給停止の計算例(2025年度)
■【例1】支給停止なしのケース
- 基本月額:12万円
- 総報酬月額相当額:35万円
→ 合計 47万円(51万円以下)
→ 支給停止なし(年金は満額支給)
■【例2】一部支給停止のケース
- 基本月額:14万円
- 総報酬月額相当額:40万円
→ 合計 54万円(基準超過 3万円)
→ 超えた3万円の1/2=1万5,000円が支給停止
■【例3】給与が高いと年金が全額停止するケース
- 基本月額:15万円
- 総報酬月額相当額:60万円
→ 合計 75万円(基準超過 24万円)
→ 支給停止額:24万円×1/2=12万円
→ 基本月額が12万円以下なら、老齢厚生年金は全額停止
4. 「退職すると全額支給」になるしくみ
在職老齢年金は “働いて厚生年金に加入している時”だけ適用 されます。
つまり、
✔ 厚生年金の被保険者でなくなった瞬間から
→ 支給停止は解除
→ 老齢厚生年金は全額支給 されます。
たとえば、
アルバイト・パートへ転換し、週勤務時間が短くなって厚生年金資格を喪失した場合も同様です。
5. 企業実務でよくある注意点
■(1)60歳以上の従業員の給与設定
給与設定によっては、
「年金がほぼゼロになる」と相談を受けることがあります。
企業としても、
- 働き方
- 労働時間
- 賃金
を本人と相談しながら調整することが望ましいです。
■(2)賞与を支給する場合は要注意
賞与が高額な場合、標準賞与額が合算され、
急に支給停止額が大きくなるケース があります。
■(3)“61歳以降”も制度は変わらず適用
65歳未満は在職老齢年金の基準が51万円で固定。
65歳以上では基準額が変わるため、別途確認が必要です。
6. 【事例】実際にあった支給停止のケース
■事例:年金がほぼゼロになり、勤務時間を調整したケース
Bさん(61歳男性)は以下の条件で働いていました。
- 基本月額(年金):13万円
- 給与:月33万円
- 賞与:年間120万円(標準賞与100万円と仮定)
→ 総報酬月額=33万円+(100万円÷12=8.3万円)=約41.3万円
→ 合計=54.3万円(51万円超過 約3.3万円)
支給停止額:超過額の1/2=約1.6万円
しかし、繁忙期に残業が増え給与が上昇し、
総報酬月額が45万円を超えた結果、
年金月額のほとんどが支給停止に。
そこで会社と相談し、
- 週の労働時間を調整
- 賞与時期を見直し
を行うことで年金が安定して受け取れるようになりました。
→ 企業側の配慮と説明が重要となる典型例です。
7. まとめ
60歳以降も働き続ける場合、収入が一定以上になると
在職老齢年金により支給が調整(停止)される仕組み があります。
理解しておくべきポイントは以下のとおりです。
- 基本月額+総報酬月額相当額が 51万円以下なら支給停止なし
- 超えた場合、超過額の1/2 が年金から停止
- 退職すれば支給停止は解除
- 給与設定・賞与支給には注意が必要
企業としては、従業員の相談に応じながら、
働き方や給与を柔軟に調整できる体制が求められます。