「諭旨解雇」と「懲戒解雇」は、どう使い分けるべきですか?
従業員の問題行動が繰り返されると、
「もう解雇せざるを得ないのではないか…」
と悩まれる経営者の方も少なくありません。
その際によく出てくるのが、
「諭旨解雇」と「懲戒解雇」 という言葉です。
どちらも重い処分ですが、性質・リスク・使いどころは大きく異なります。
誤った使い分けをすると、解雇無効やトラブルにつながるおそれがあります。
今回は、実務の視点から分かりやすく解説します。
そもそも「諭旨解雇」と「懲戒解雇」の違いとは?
諭旨解雇とは
諭旨解雇とは、
懲戒解雇相当の事案ではあるものの、情状酌量の余地がある場合に、退職を勧告する形で行う処分です。
特徴は次のとおりです。
- 本人に反省の態度が見られる
- 自主的な退職(退職届の提出)を促す
- 一定期間内に退職届が出なければ懲戒解雇に移行する運用が多い
- 退職金を「一部支給」とする規程がある会社も多い
👉 「最後の救済措置」として位置づけられることが一般的です。
懲戒解雇とは
懲戒解雇は、
懲戒処分の中で最も重い処分です。
特徴は次のとおりです。
- 背信性・悪質性が極めて高い
- 企業秩序を著しく乱した
- 会社に重大な損害を与えた
- 即時解雇とするケースが多い
- 退職金は「不支給」または「一部不支給」とされることが多い
👉 「企業としてこれ以上雇用関係を継続できない場合」に限って選択すべき処分です。
実務での使い分けのポイント
判断の軸は、次の3点です。
① 行為の悪質性・重大性
- 単発か、繰り返しか
- 故意か、過失か
- 会社への影響はどの程度か
② 改善・反省の可能性
- 注意・指導・戒告をしてきたか
- 改善の機会を与えてきたか
- 本人に反省の態度があるか
③ 就業規則の定め
- 懲戒事由が明記されているか
- 懲戒解雇・諭旨解雇の規定があるか
- 退職金の取扱いが定められているか
👉 就業規則に根拠がなければ、いずれも極めて危険です。
【事例①】諭旨解雇が選択されたケース
事例
営業担当者が、
・無断欠勤
・虚偽報告
・顧客対応のトラブル
を繰り返していました。
これまでに
口頭注意 → 書面注意 → 始末書提出
と段階的な指導を行っていましたが、改善が見られませんでした。
最終的に本人は反省の意を示し、
会社としても「これ以上の改善は難しいが、即懲戒解雇は酷」と判断。
👉 諭旨解雇とし、退職届の提出を勧告
👉 退職金は規程に基づき一部支給
ポイント
- 指導の積み重ねがある
- 本人の反省が確認できる
- 懲戒解雇のリスクを回避できた
【事例②】懲戒解雇が相当と判断されたケース
事例
経理担当者が、
・会社資金の横領
・帳簿の改ざん
を行っていたことが発覚。
金額も大きく、故意性が明白で、会社の信頼を著しく損なう行為でした。
👉 懲戒解雇を選択
👉 退職金は不支給
ポイント
- 背信性が極めて高い
- 改善の余地がない
- 企業秩序の維持が最優先
注意!どちらも「自動的に有効」ではありません
重要なのは、
諭旨解雇でも懲戒解雇でも、必ず「相当性」が問われるという点です。
- 処分が重すぎないか
- 指導や警告を尽くしたか
- 他の従業員とのバランスは取れているか
これらを欠くと、
👉 解雇権の濫用として無効
となる可能性があります。
経営者の方へ(実務上のアドバイス)
- 感情で判断しない
- いきなり解雇を選ばない
- 証拠・記録を必ず残す
- 就業規則を必ず確認する
- 迷ったら専門家に相談する
問題行動への対応は、
「辞めさせること」より「リスクを最小限に抑えること」が重要です。
根拠法令・参考情報
- 労働契約法 第15条(解雇権濫用法理)
解雇・懲戒対応でお悩みの方へ
判断を誤ると、後から大きなトラブルになる分野です。
状況に応じた進め方を整理したい場合は、早めのご相談をおすすめします。
👉 初回相談は無料です。お気軽にお問い合わせください。