― 合意がある場合・ない場合の正しい対応 ―
|ひらおか社会保険労務士事務所
はじめに(経営者の皆さまへ)
業績悪化や能力評価の結果として、
- 「やむを得ず賃金を下げたい」
- 「本人も理解してくれているので通知すれば大丈夫だろう」
と考える場面は、決して珍しくありません。
しかし、降給は労働条件の不利益変更にあたるため、
対応を誤ると「無効」「違法」と判断されるリスクがあります。
今回は、
- 従業員が降給に合意している場合
- 従業員が降給に合意しない場合
それぞれについて、実務上の注意点をわかりやすく解説します。
1.【重要】降給は原則「合意」が必要です
賃金は、労働契約の最も重要な内容の一つです。
そのため、降給は原則として、
👉 従業員本人の合意が必要
となります(労働契約法8条)。
「会社の判断だから」「評価が下がったから」という理由だけで、
一方的に賃金を下げることはできません。
2.【合意がある場合】降給通知で必ず気をつけること
従業員と合意形成ができている場合でも、
口頭だけで済ませるのは非常に危険です。
実務上、必ず行っていただきたい対応
① 書面で変更内容を明示する
次の点を、必ず書面で明示してください。
- 変更前の賃金額
- 変更後の賃金額
- 変更の適用開始日
② 内容を理解した旨の署名をもらう
従業員本人から、
- 内容を理解した
- 合意した
ことが分かる 署名(または記名押印)を必ずもらいましょう。
③ 書面の形式は柔軟でOK
書面の形式は、次のようなもので問題ありません。
- 雇用契約書(再締結)
- 辞令
- 雇用契約書変更の覚書
重要なのは形式ではなく、「証拠として残るか」です。
3.【実務事例】合意があっても書面がなくトラブルに
事例:口頭合意だけで降給したケース
- 上司と面談し、本人は「仕方ない」と発言
- 書面は作成せず、翌月から給与を減額
後日、従業員が退職後に、
「本当は納得していなかった」
「強制された」
と主張。
👉 書面がなく、降給の有効性が争われる事態に。
合意がある場合ほど、書面化が重要です。
4.【合意がない場合】勝手に降給するのはリスクが高い
では、能力不足などを理由に降給したいものの、
従業員が合意しない場合はどうすればよいのでしょうか。
① 就業規則に「具体的な降給規定」があるか
就業規則に、
- 降給の要件
- 評価基準
- 降給幅
などが 具体的に定められている場合には、
その規定に基づき降給が認められる可能性があります。
ただし、
「能力不足の場合は降給することがある」
といった 抽象的な規定だけでは不十分なケースが多い点に注意が必要です。
② 規定がない・曖昧な場合は合意なしの降給は困難
就業規則に明確な定めがない場合や、
定めがあっても抽象的な場合には、
👉 合意なくして降給することは非常にリスクが高い
と考えるべきです。
この場合、降給ではなく、
- 指導・教育の実施
- 配置転換
- 評価制度の見直し
- 最終的には労働契約の解除(解雇)の検討
といった段階的な対応が必要になります。
5.【合意が得られない場合】事前対応が重要です
降給を検討する前提として、次の点が重要になります。
✔ 能力向上のための教育・指導を行っているか
✔ 評価が客観的・公平に行われているか
✔ 降給理由や変更後の労働条件を丁寧に説明しているか
これらを欠いたまま降給や解雇に進むと、
不当と判断される可能性が高まります。
6.経営者が押さえるべきポイント(まとめ)
✔ 降給は原則「本人の合意」が必要
✔ 合意があっても必ず書面で残す
✔ 変更前後の賃金額を明確に記載
✔ 就業規則の降給規定の有無を確認
✔ 合意がない場合は慎重な段階対応が必要
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