企業からよくあるご相談の一つに、次のようなケースがあります。
「毎日9.5時間働く契約にして、所定8時間+残業1.5時間で固定したい」
「変形労働時間制は導入せずに、個別契約で済ませたい」
結論から言うと、変形労働時間制を採用せずに、毎日時間外労働を前提とした労働契約だけで運用することは基本的にできません。
なぜダメなのか?
労働基準法では、法定労働時間は1日8時間・週40時間が原則です。
この範囲を超える労働は「時間外労働」となり、次の2つの条件を満たさなければ命じられません。
- 就業規則または労働協約に定めがあること
- 例:「業務上の必要があるときは、36協定の範囲内で時間外労働を命じることがある」
- 36協定(時間外・休日労働に関する協定)を締結し、労働基準監督署に届け出ていること
この2つを満たさない限り、個別の労働契約で「毎日1.5時間残業する」と決めても、法的効力はありません。
実際の事例
たとえば、飲食店の正社員を想定してみましょう。
- 所定労働時間:8時間(9:00~18:00)
- 毎日1.5時間の残業を想定(18:00~19:30)
- 変形労働時間制は導入していない
この場合、次の対応が必要です。
- 就業規則に時間外労働の定めを置く
- 36協定を締結し、法定時間外労働の上限内で残業を命じる
もしこれらを行わずに「契約書で毎日9.5時間勤務」としてしまうと、違法な時間外労働の温床となり、労基署から是正指導を受ける可能性があります。
注意点と実務対応
- 時間外労働は、業務上の必要性がある場合に限り命令可能
- 36協定の範囲を超える残業は、特別条項付き36協定がなければ違法
- 常態的な長時間労働は、過労リスク・割増賃金負担・労基署の監督の観点からも注意が必要
まとめ
- 個別の労働契約だけで「毎日残業前提」は原則NG
- 就業規則+36協定の整備が必須
- 実務では、変形労働時間制やシフト調整も検討が安全
労働時間制度や36協定の整備は、企業にとってリスク管理の第一歩です。
「うちの運用は大丈夫かな?」と不安な場合は、専門家にご相談ください。