労務管理

人事部で受領した退職届は撤回できるのか?

退職届を提出した従業員から「やはり撤回したい」と申し出があった場合、会社としてどのように対応すべきでしょうか。
実務上よく問題となるのが、退職届を受領した時点で撤回が可能かどうかです。

退職届の法的性質

退職届が法的にどのように扱われるかによって、撤回の可否が変わります。

  1. 合意解約の申込みの場合
    退職届が「会社との合意による退職」の申込みとされる場合、会社が承諾した時点で契約は成立します。
    この場合、承諾後は原則として撤回できません。 → 判例(大隈鐵工所事件・最三小判昭和62年9月18日)では、人事部長による退職願の受領が「承諾」と認められる場合があるとされています。
  2. 従業員の一方的な退職の意思表示の場合
    退職届が「退職の告知」とみなされる場合、会社に到達した時点で効力を生じます。
    この場合も、到達後は撤回できません。

実務上のポイント

  • 退職届を人事部で受領したこと自体が、会社の承諾または到達とみなされ、撤回できなくなる可能性があります。
  • ただし、例外的に撤回できる場合があります。
    • 錯誤(思い違い)、詐欺・強迫などにより意思表示に瑕疵がある場合
    • 例:強い精神的圧力を受けて提出した場合

【事例】

Aさん(従業員)は上司とのトラブルの末、感情的になって退職届を提出しました。
翌日冷静になり「撤回したい」と人事部に相談しましたが、すでに人事部長が受領しており、退職の承諾が会社として成立していると判断されました。
このケースでは、原則として撤回は認められません。
ただし、仮にAさんが「強い脅しを受けて退職届を書かされた」などの事情があれば、民法上の詐欺・強迫による取消しを主張できる余地があります。

まとめ

  • 退職届は、人事部で受領した時点で「撤回できなくなる可能性が高い」
  • 合意解約か一方的意思表示かを問わず、原則として撤回は困難
  • ただし、錯誤・詐欺・強迫といった特別な事情がある場合は例外的に撤回可能

退職届を受領する場面では、受領=退職の承諾とみなされるリスクを踏まえて慎重に対応する必要があります。

根拠法令・参考情報

  • 大隈鐵工所事件(最三小判昭和62年9月18日)
  • 民法 第93条(心裡留保)
  • 民法 第94条(虚偽表示)
  • 民法 第95条(錯誤)
  • 民法 第96条(詐欺又は強迫)

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