「医師が診療後に論文を書いている時間は労働時間?」
「学会発表の準備は残業になる?」
このような疑問を持つ病院経営者や事務長の方は少なくありません。
厚生労働省は、「医師等の宿日直許可基準及び医師の研鑽に係る労働時間」に関する通達を改正し、大学附属病院等に勤務する医師の研鑽に関する考え方をより明確にしました。
今回の改正は新たなルールを設けたものではなく、従来の労働基準法の解釈を整理・明確化したものですが、医療機関の労務管理に与える影響は決して小さくありません。
「研鑽だから労働時間ではない」は危険です
医療業界では、
- 学会発表の準備
- 論文執筆
- 新しい治療法の勉強
- 学生への教育
などを「自己研鑽」として扱うケースがあります。
しかし、
内容によっては労働時間となる可能性があります。
ここを誤って運用すると、
未払い残業代の問題や労働時間管理の不備につながる恐れがあります。
今回の通達で明確になったポイント
大学附属病院などで、
教育・研究が本来業務に含まれる医師については、
教育・研究に必要な準備や後処理も本来業務となり、
所定労働時間内・外を問わず労働時間となることが明確化されました。
例えば、
- 医学生への講義
- 試験問題の作成・採点
- 学生論文の指導
- 国家試験に関する事務
- 教育・研究の準備や後処理
などは、本来業務として行う場合には労働時間に該当します。
上司の指示があれば労働時間になる
通達では、
本来業務と直接関係する研鑽を、
勤務時間外であっても
上司の明示または黙示の指示により実施した場合は、一般的に労働時間に該当する
ことも明記されています。
つまり、
「自主的にやっていますよね?」
という形式だけでは判断できません。
実態として、
病院から期待されている
指示されている
評価対象になっている
のであれば、
労働時間となる可能性があります。
事例① 学会発表準備が残業問題に…
ある病院では、
若手医師が毎日診療終了後に学会資料を作成していました。
病院としては
「自主的な勉強」
という認識でしたが、
実際には教授から
「来月の学会発表よろしく。」
と依頼されていました。
さらに、
勤務評価にも影響していました。
この場合、
実態として業務命令性が認められれば、
労働時間と判断される可能性があります。
医療機関が見直すべきポイント
今回の通達を踏まえると、
病院では次の点を確認する必要があります。
① 教育・研究の位置付け
本来業務なのか
自主的な研鑽なのか
整理しましょう。
② 指示の有無
上司から
- 明示的
- 黙示的
な指示がないか確認します。
③ 労働時間管理
研鑽時間が
労働時間なのか
自己研鑽なのか
記録できる運用を整備します。
④ 管理職教育
教授
診療科長
部長
など管理職が、
労働時間の考え方を理解していなければ、
現場運用が統一されません。
事例② 運用ルールを見直した大学病院
ある大学病院では、
研鑽時間について医師ごとの判断が異なっていました。
そこで、
- 本来業務
- 自己研鑽
- 上司の指示がある業務
を整理し、
事前確認制度を導入。
医師本人と上司が認識を共有する仕組みを作った結果、
時間管理が明確になり、
未払い残業代リスクの軽減につながりました。
社会保険労務士の視点
今回の通達で最も重要なのは、
「研鑽」という名称ではなく、実態で判断する
という考え方です。
病院では、
善意で行われている教育や研究が多くあります。
しかし、
使用者の指示や業務との関連性が認められる場合は、
労働時間となる可能性があります。
また、
通達でも、
医師本人と上司が十分にコミュニケーションを取り、本来業務との関連性について認識を共有することが重要とされています。
医師の働き方改革が進む中、
労働時間管理はこれまで以上に重要になります。
まとめ
今回の通達では、
大学附属病院等に勤務する医師の教育・研究について、
労働時間の考え方がより明確になりました。
医療機関では、
- 研鑽と業務の区分
- 労働時間管理
- 管理職教育
- 院内ルールの整備
を改めて見直すことが重要です。
医師の働き方改革への対応は、法令遵守だけでなく、安心して働ける医療現場づくりにもつながります。
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