1.割増賃金とは?
時間外・休日・深夜労働を行った従業員に対し、企業が支払う追加賃金のことを「割増賃金」といいます。
これは労働基準法第37条に定められた、法律上の義務です。
割増賃金の計算にあたっては、「どの手当を含めるのか」「どの手当を除くのか」を正しく理解しておく必要があります。
特に、除外できる手当は法律で限定列挙されているため注意が必要です。
2.法令で定められた「除外できる手当」は7つだけ
労働基準法施行規則第21条では、
割増賃金の基礎から除外できる手当を次の7種類に限定しています。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金(例:慶弔見舞金、特別報奨金など)
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(例:賞与など)
➡️ 上記以外の手当は、すべて割増賃金の基礎に含めなければなりません。
3.「限定列挙」とは?
限定列挙とは、「法令で定められた項目以外は除外できない」という意味です。
つまり、会社が独自に「これは除外できる」と判断することはできません。
たとえば、次のような手当は名称にかかわらず、内容次第では割増賃金の計算基礎に含める必要があります。
| 手当の名称 | 判断のポイント | 取扱い |
|---|---|---|
| 役職手当 | 役職に就いている限り毎月定額で支払われる | 割増賃金の基礎に含む |
| 精勤手当 | 欠勤しなければ必ず支給される | 割増賃金の基礎に含む |
| 特別手当 | 支給の条件や性質による(臨時かどうか) | 内容次第で判断 |
| 能率手当 | 成果や勤務成績に応じて支給される | 割増賃金の基礎に含む |
💡名称ではなく「実質」で判断するのが原則です。
同じ「家族手当」という名称でも、実際に扶養人数と関係なく全員に一律支給している場合は、割増賃金の基礎に含まれます。
4.【事例】名称だけで除外したケース
❌ 事例:一律支給の「家族手当」を除外していた
ある企業では、全従業員に一律5,000円を「家族手当」として支給していました。
しかし、扶養家族の有無に関係なく支給していたため、実態としては「家族に関係のない定額手当」。
結果、割増賃金の基礎に含めるべき賃金を除外していたとして、労働基準監督署から是正指導を受けました。
➡️ 「家族手当」と名前がついていても、実態が“家族に関係のない手当”であれば除外できないという判断です。
5.【実務のポイント】
- 除外できる手当は、法令で定められた7つだけ(=限定列挙)
- 手当の名称ではなく、支給実態(性質)で判断する
- 不明な場合は、割増賃金の基礎に含めるのが安全
- 就業規則や給与規程に、各手当の趣旨・支給基準を明記しておくことが重要
6.参考法令
- 労働基準法 第37条
(時間外、休日及び深夜の割増賃金) - 労働基準法施行規則 第21条
(割増賃金の基礎から除外できる賃金の範囲)
7.まとめ
「割増賃金の計算基礎から除外できる手当」は、
法律で明確に定められた7種類のみであり、企業の裁量で増やすことはできません。
特に、手当の性質を誤って除外すると、過去2年分の未払い賃金請求リスクが生じるおそれがあります。
支給項目を今一度整理し、実態と一致しているか確認しましょう。
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