労務管理

カスタマーハラスメントに関して、事業主が講ずべき「相談体制の整備」とは?/ひらおか社会保険労務士事務所

カスタマーハラスメント対策において、事業主に求められる重要な対応の一つが、従業員が安心して相談できる体制を整えることです。

単に「何かあれば上司に相談してください」と伝えるだけでは十分とはいえません。

会社として、あらかじめ相談窓口を定め、従業員に周知し、相談を受けた担当者が適切に対応できる仕組みを整えておく必要があります。

相談体制の整備とは

具体的には、次のような対応が求められます。

1. 相談窓口をあらかじめ決めておく

まず、従業員がカスタマーハラスメントを受けたときに、誰に相談すればよいのかを明確にしておく必要があります。

たとえば、次のような方法が考えられます。

・店長、管理者、総務担当者を相談窓口にする
・本社の人事・労務担当者を相談窓口にする
・外部の社会保険労務士や相談機関に相談窓口を委託する
・既存のハラスメント相談窓口と一体的に運用する

大切なのは、従業員が「どこに相談すればよいかわからない」という状態にしないことです。

2. 従業員に相談窓口を周知する

相談窓口を設置しても、従業員が知らなければ意味がありません。

そのため、就業規則、社内掲示、社内チャット、入社時説明、研修資料などを通じて、相談窓口の存在を周知しておくことが重要です。

特に、接客業、医療・介護、飲食業、小売業、コールセンターなど、顧客対応が多い職場では、現場の従業員がすぐに相談できるようにしておく必要があります。

3. 発生後だけでなく「おそれがある段階」でも相談できるようにする

カスタマーハラスメント対策で重要なのは、実際に被害が発生した後だけでなく、発生のおそれがある段階でも相談できる体制にすることです。

たとえば、次のようなケースです。

・顧客から何度も長時間の電話を受けている
・強い口調で繰り返し謝罪を求められている
・SNSに悪評を書くと言われている
・担当者を名指しして執拗に連絡が来ている
・現時点では判断が難しいが、従業員が精神的に負担を感じている

このような段階で相談できれば、被害の拡大を防ぐことができます。

「まだカスハラと断定できないから相談できない」ではなく、早めに相談できる仕組みを作ることが大切です。

4. 相談担当者が適切に対応できるようにする

相談窓口の担当者には、相談内容に応じて適切に対応できる準備が必要です。

たとえば、次のような対応が考えられます。

・相談内容を丁寧に聞き取る
・相談者の心身の状態に配慮する
・必要に応じて上司や本社と連携する
・対応記録を残す
・一人で対応させず、複数名で対応する
・悪質な場合は警察や弁護士等への相談を検討する
・相談者のプライバシーを守る

相談を受けた担当者が対応に迷わないよう、事前にマニュアルや対応フローを作成しておくと実務上有効です。

実務上の事例

事例1:飲食店で長時間のクレーム電話が続いたケース

ある飲食店で、料理の提供時間に関する苦情をきっかけに、同じ顧客から毎日のように長時間の電話が入るようになりました。

現場スタッフは対応に疲弊していましたが、「クレーム対応だから仕方がない」と考え、相談できずにいました。

このような場合、会社として相談窓口を明確にしていれば、早い段階で店長や本部に共有し、対応者の変更、電話対応時間の制限、対応記録の作成などを検討できます。

結果として、従業員を一人で抱え込ませず、組織として対応することができます。

事例2:医療・介護現場で利用者家族から強い言動を受けたケース

医療機関や介護事業所では、利用者本人だけでなく、ご家族から強い言動を受けることがあります。

たとえば、「すぐに担当者を変えろ」「誠意を見せろ」「SNSに書くぞ」といった発言が繰り返されるケースです。

この場合も、現場職員だけに対応を任せるのではなく、管理者・法人本部・相談窓口が連携し、事実確認、対応方針の決定、職員のメンタル面への配慮を行うことが大切です。

経営者が押さえるべきポイント

カスタマーハラスメント対策は、従業員を守るためだけのものではありません。

対応を現場任せにしてしまうと、従業員の離職、メンタル不調、職場の士気低下、サービス品質の低下につながるおそれがあります。

一方で、会社として相談体制を整えておけば、従業員は安心して働くことができ、トラブル発生時にも冷静に組織対応を行うことができます。

つまり、カスタマーハラスメント対策は、従業員保護であると同時に、会社を守るためのリスク管理でもあります。

まとめ

カスタマーハラスメントに関して事業主が講ずべき相談体制の整備とは、単に相談先を置くだけではありません。

・相談窓口をあらかじめ定める
・従業員に周知する
・担当者が適切に対応できるようにする
・発生後だけでなく、発生のおそれがある段階でも相談できるようにする
・相談者のプライバシーを守る
・必要に応じて関係部署や外部専門家と連携する

このような体制を整えることが重要です。

カスタマーハラスメントは、放置すると従業員の心身に大きな負担を与え、離職や職場環境の悪化につながる可能性があります。

「従業員を守る会社の姿勢」を明確にし、現場が一人で抱え込まない仕組みを作ることが、これからの企業に求められる実務対応です。


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